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「わぁ、ロウ、かっこいい」
「…そうか?」
着飾っているロウを見て、ユイの胸はきゅうっと締め付けられた。
ロウがかっこ良すぎて困る。
稀有な純白の毛並みを持つロウは、ただ存在しているだけで神々しいほど美しいが、いつもは付けない武具を付けたり、見たことのない煌びやかな装束を着ていたりすると、凛々しさが引き立ち、新鮮な魅力が炸裂する。
ドキドキが止まらない。
「お前の方が可愛いが」
光沢あるタキシードのような衣装を身に着けたロウが、ドレス姿のユイを片腕でさらりと抱き上げて、ちゅっと軽いキスをする。
ぼぼぼぼ、と顔が熱を持つのが分かる。
ロウが甘い。
元々ロウは優しかったけれど、ユイを唯一の相手と群れに宣言した日から、人目を気にせず率直な愛情表現をしてくれる。双子の妹ではなく自分の女として。
嬉しくて。ふわふわして。夢みたいで。
泣きたくなる。
「ロウ様、何という麗しき風姿」「まさに気高き孤高の王」
「このように麗しきお姿を拝めるとは生涯の喜び、…っ」
周りに控える宮廷内侍従たちから歓声が上がる。涙ぐんでいる者もいる。
ユイにドレスを着付けてくれたカルナとナツナもうっとりロウに見惚れている。群れは白き人狼を中心に回っているので当然の反応と言える。
「ユイ様もお可愛らしく」
「ロウ様がお喜びになるのももっともです」
取ってつけたようにユイも褒められる。
ロウが人間であり妹であるユイを生涯唯一の番としたことを不安視している群れの人狼もいるが、絶対的なボスの決定を信じようとする者が多い。
故に、ユイに向けられる視線は、お手並み拝見という感じだ。
「うん。ユイはいつも可愛いが今日は格別可愛い」
手放しで褒めるのはロウくらいだ。
純白のフリルとレースをふんだんに使った艶やかなワンピースドレスを着たユイに目を細め、髪を撫でながらロウがキスを繰り返す。
待って、ロウ。なんか視線が痛い。
誰か今、バカップルが、って言わなかった?
「ボス、趣旨が逸れてます」
「果樹園で皆が待ち構えてますよ」
側近のヴィルとシュンがロウを促す。
そんな発言をするとしたら彼らに違いない。
彼らはロウに忠誠を誓っているが、ユイとも幼なじみであり、遠慮がない。それでもユイとロウの仲を最も喜んでくれているのは確かだ。
「あんなに幸せそうなボスは見たことがない」
「ボスがユイを選んだんだ。自信を持て」
さりげなくユイを励ましてくれるし、口さがない話は耳には入れないよう配慮してくれる。
「そうだった。行くぞ、ユイ。今日はブドウ会だ」
ロウがユイに頬ずりをしてからしっかりとその胸に抱きかかえ、空を切った。
ロウは速い。白き人狼の跳躍力は飛び抜けており、
「なんと、麗しい」
その姿を見慣れている人狼たちでも目を奪われる。煌びやかな風が華麗に吹き抜けていったかのようだ。…などと見惚れている場合ではない。我に返った宮廷の人狼たちも果樹園に急ぐ。
今日は、その可憐なるボス発案の「ブドウ大会」なのである。
広大な土地を誇る美しい果樹園に勢ぞろいした群れは、老若男女問わず、大興奮で数々の種目に興じた。
元帥の二人が指揮する人狼部隊の武道披露に始まり、雌人狼による華やかな舞踊、子ども人狼たちの葡萄競争と続いていく。
葡萄競争とは、高木のてっぺんに成る山葡萄をとってくる競技だ。最も美味しいと言われるてっぺん葡萄を誰が一番早く取ってこられるかの勝負で、身軽さと素早さ、獲物の質を見抜く力が問われる。人狼にとって、てっぺん葡萄を取ってくることは教養の一つなのである。
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