呪われた脚

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呪われた脚

 自宅である丞相(じょうしょう)の館にナツヒは運ばれた。中央お抱えの医師が診察している。  その間、執務用の一室にユウナギとトバリはいた。  トバリの言うには、ふたりは門限より早く帰ってきたようだ。今時分は遠出6日目の昼過ぎ。 「ユウナギ様、早くお帰りになったことは良い行いです。ですが、一体何があったのか、お聞かせ願えますか?」  ユウナギは一応食事をとり、先ほどまでの状況からはずいぶん回復した。しかし顔がとても青ざめている。 「ごめんなさい……ナツヒをあんなふうにしてしまったのは、私が……私のせい……」 「そういうことを言わせたいのではないです。あなたが気に病むことではない。ただ私は説明が欲しいのですよ。その道中に何があってこうなっているのか」  どうにも冷静になれない彼女には、責められているようにしか聞こえない。  話さなくてはいけないことは分かっている。ナツヒの状態についてだけでなく、この遠出の間に起こったすべての事を。  しかし今の自分が理路整然と、事の発端からを伝えられるとはまったく思わない。 「ごめんなさい……。今はどうしても、無理……」  こんなところで泣きたくはない、だがどうしようもなく涙がこぼれてしまうユウナギに、トバリは気遣いながら言う。 「分かりました。彼の診断結果を待ちましょう。でも今あなたが溜め込んでいることを、後で必ず話してくれますね?」  涙を拭いながら(うなず)くユウナギの頭を、彼は優しく撫でた。  しばらくユウナギは、彼の邪魔にならないよう気を付けながら(そば)にいた。彼は木簡(もっかん)に何かを記す業務の最中だ。  ユウナギはやはりこういう真面目な表情を見せる人が素敵なのだと、どうしてアヅミは真逆の、始末に負えない男がいいのだろうと、いまだ不満が募る。  そこからアヅミの負傷を思い出し、心配でたまらなくなってしまった。  更に連鎖のように、あそこでの会話の記憶を紡ぎだし、とうとう口にせざるを得ないほどの不安が蓄積した。 「兄様」 「はい?」 「ナツヒの脚……あれはきっと呪いなの!」  その時、室外からトバリの部下が彼を呼んだ。彼はその連絡を聞き、ユウナギに問う。 「医師の話を聞きに、行きますか?」 「……もちろん!」
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