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丞相館の客室にて。トバリは医師を労い、茶を勧めた。
年老いた医師は言う。彼の膝に、目立たないが腫れて変色している部分がある。そこの内部骨折の可能性が高いと。
「でもナツヒは普通に走ったり跳んだりしてた! 何も打ったりはしてなくて、急によ?」
本人もそう話したようだ。
医師は、ごくまれだが衝撃を受けてすぐではなくとも、それが積み重なりこういう事態になることもあると話す。
「それなら……いくらでもあるだろうけど……」
時を越えた時だって、転落して頭や身体を打ったのだ。
「でも安静にしていれば治るのよね?」
落ち着いて話を聞いているトバリとは対照的に、ユウナギは焦って質問を繰りだしてしまう。
「それは何とも……」
「時間はかかっても骨はそのうちくっつくんでしょ? なんかの書にそう書いてあった!」
前のめりな彼女をトバリは軽く諫めた。
医師はためらいがちに話す。
ただ折れているだけなら元通りになるかもしれない。
しかし実際内部がどうなっているかは分からない。骨だけでなく、筋も異常をきたしていないだろうか。
正常に戻るか、確証は持てない。
たとえ歩けるまでには治ったとしても、あくまで通常の生活に支障のない程度かもしれない。
そこでトバリがやっと口を開いた。
「と、言うと?」
彼はここまでの、歯切れの悪い医師の説明でおおよそ意を得ている。だがユウナギに最後まで聞かせなくてはならない。
「兵士としての働きが今までと遜色なくできるかどうかは、正直……厳しい、かと……」
「!!」
トバリにももちろん衝撃的な話だが、ユウナギはそれどころでない。
王女である彼女が、医師の元で膝をついて頭を下げた。
「お願いします! ナツヒを、今までどおり戦えるように治してください!」
「お、おやめくだされ……」
医師は困惑し彼女の肩に手を添える。
「ナツヒは兵士の職に誇りを持ってて……。この職務が彼の生き甲斐なんです!」
一度食いついたら離しそうもない彼女をトバリは持ち上げ、すとんと席に戻した。
「どうにか、ならないものか」
こういう時は彼のように、冷静に手段を求めるべきなのだ。ユウナギはいつも失念する。
「私の方では……なんとか歩けるようになるまでは、懸命に務めさせていただきます」
「そんな……」
ユウナギが肩を落としたその時だった。
「しかし、あの医師ならば……あるいは……」
医師がそう呟いたのは。
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