呪われた脚

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 ふたりは期待を胸に抱き、医師の次の言葉を待った。 「かれこれ十数年も前のことです。私は一度だけ、奇跡の医術を目にしました」  彼の話すには、とても信じられない術を持つ医師が、この国に現れたのだと。  きっと遠くの国からやってきたのだろう。彼女はこの国の者とは容姿も言葉も違った。  しかし驚くべきはその手腕だ。誰もが諦めた若い命を救った。 「彼女は患者の身体を開き、中に触れ、正常に戻し、そして開いた部位を縫い合わせた」  ふたりはそれを聞いて、言葉が出なかった。 「そして患者は無事、命を取りとめたのです」 「そんな、身体を開くって、切るってことでしょ? 死んでしまうわ」 「だから信じられない。奇跡です。しかし彼女はたどたどしい、覚えたばかりのこの国の言葉で話してくれました。彼女の生まれた国では、これを“手術”と呼び、少なくない医師が日々研究し実践しているのだと」  信じられないことに変わりはないが、ユウナギには俄然(がぜん)、希望の光が見えてきた。 「しかし、十年以上前のことなのだな?」  トバリが尋ねる。 「その医師に会ったのはそうです。ただ、その医師が南の(むら)に定住して診療を行っている、という噂を聞きました。それは確かほんの2年前のことで」 「すぐに噂の出所を調べよう」  ユウナギは不安だった。噂の真偽ではなく、一刻も早くその医師と接触したいと思う。  その時、医師が弟子に任せているナツヒの様子を見にいくと話したので、ユウナギも同行しようとした。  しかし医師はそれを止める。 「ナツヒ様は先ほど、今は誰にも会いたくないと仰せでしたので……」  彼女はそう聞いて、少なからず動揺した。  医師はもちろん王女がより高位だと分かっているが、患者の気持ちを何よりも優先したいと言う。 「今は気持ちが高ぶっている時でしょう。また落ち着いたら、彼のところにいきましょうね」 「……はい……」
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