41人が本棚に入れています
本棚に追加
ふたりは期待を胸に抱き、医師の次の言葉を待った。
「かれこれ十数年も前のことです。私は一度だけ、奇跡の医術を目にしました」
彼の話すには、とても信じられない術を持つ医師が、この国に現れたのだと。
きっと遠くの国からやってきたのだろう。彼女はこの国の者とは容姿も言葉も違った。
しかし驚くべきはその手腕だ。誰もが諦めた若い命を救った。
「彼女は患者の身体を開き、中に触れ、正常に戻し、そして開いた部位を縫い合わせた」
ふたりはそれを聞いて、言葉が出なかった。
「そして患者は無事、命を取りとめたのです」
「そんな、身体を開くって、切るってことでしょ? 死んでしまうわ」
「だから信じられない。奇跡です。しかし彼女はたどたどしい、覚えたばかりのこの国の言葉で話してくれました。彼女の生まれた国では、これを“手術”と呼び、少なくない医師が日々研究し実践しているのだと」
信じられないことに変わりはないが、ユウナギには俄然、希望の光が見えてきた。
「しかし、十年以上前のことなのだな?」
トバリが尋ねる。
「その医師に会ったのはそうです。ただ、その医師が南の邑に定住して診療を行っている、という噂を聞きました。それは確かほんの2年前のことで」
「すぐに噂の出所を調べよう」
ユウナギは不安だった。噂の真偽ではなく、一刻も早くその医師と接触したいと思う。
その時、医師が弟子に任せているナツヒの様子を見にいくと話したので、ユウナギも同行しようとした。
しかし医師はそれを止める。
「ナツヒ様は先ほど、今は誰にも会いたくないと仰せでしたので……」
彼女はそう聞いて、少なからず動揺した。
医師はもちろん王女がより高位だと分かっているが、患者の気持ちを何よりも優先したいと言う。
「今は気持ちが高ぶっている時でしょう。また落ち着いたら、彼のところにいきましょうね」
「……はい……」
最初のコメントを投稿しよう!