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それは、夕食の時間に起きた。
「わたくしの代わりにお姉様が辺境伯と結婚すればいいのよ! そうよ、名案だわ。だって、お姉様なんかに結婚の申し込みをしたいと考える御方なんていないでしょう?」
妹のイザベラがそこまではっきりと言ってきたことに、わたしは眩暈を起こしそうだった。
たしかにイザベラはわたしなんかと違って社交的で、明るくて、頭の回転も速い。
わたしとイザベラが同じなのは見た目だけ。赤みがかった金髪は緩やかなウェーブを描き、二重の瞳は淡いピンク色。
背丈や顔かたちは似ているものの、いつでも自信に溢れているイザベラと違って、わたしは下がり眉で、笑うのが下手だ。
そんな妹は、物心ついたときから王太子殿下の妃の座を狙っている。
だからといって、夜会でイザベラを見初めたという辺境伯の求婚を、わたしへ押し付けてくるとは思いもしなかった。
辺境伯マティアス様は変わり者という噂で、先日の夜会も、数年ぶりに姿を見せたらしい。
妹は社交辞令としてマティアス様と会話を交わしたそうなのだが、どうやらそれがマティアス様のお心に刺さったらしい。
突然、我が伯爵家へ求婚の手紙を送ってきたのが、今日のお昼すぎの話だ。
「……え?」
「ふむ。そうだな、それがいい。イザベラは流石だな。ヘンリエッタの将来まで考えてやるだなんて」
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