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「マティアス様は、妹のイザベラへ求婚されたのですよね? わたしにはイザベラのような快活さはありません。マティアス様こそ、わたしでいいのでしょうか……」
いくら同じ顔とはいえ、とまでは言えない。
「君たち姉妹は、焼き菓子を作ったことがあるか?」
「……え?」
急に話が変わり、わたしは首を傾げる。
「イザベラが作っているのを見たことはありません。わたしは、人と会って話すことよりも、お菓子作りが好きです」
「そうか。それなら問題ない」
ふわり、マティアス様が微笑む。
「改めて。ヘンリエッタ、私と結婚してくれないか」
★
結婚式は、辺境伯らしからぬ質素なものだった。
教会で、マティアス様と永遠の愛を誓っただけ。
ファーストキスは、神様の御前で。
とにかくたくさんの目にさらされると委縮してしまうので、小ぢんまりとした方がわたしにとってはよかった。
実家の誰も来なかったけれど、寂しくはなかった。
マティアス様はいろんなことを教えてくれた。
鶏の卵の拾い方だけでなく、乳牛の乳しぼりや、魚の釣り方。
山での罠の仕掛け方と、歩き方。
蜜蜂の巣箱の扱い方。
晴れた日には畑で作業をしたし、嵐の日には一緒に畑へ覆いをかけた。
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