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お父様が、立派な髭を撫でながら何度も頷いた。
「そ、そんなことをしたら、マティアス様の不興を買いませんでしょうか……?」
「問題ない。イザベラには既に内々で決めた婚約者がいると説明し、その代わりに姉のヘンリエッタを嫁がせると提案するのだ」
睨むような目つきで見られてしまえば、縮こまることしかもうできない。
「彼は今年で28歳になったのではないか? そもそも、これまで数々の縁談が破談になった男なのだ。10歳近く若い女性が嫁げば卿は喜び、我が家は辺境伯との繋がりができて、双方メリットがある。すばらしい話だ!」
信じられないことにお父様もイザベラも本気だった。
あれよあれよという間に、わたしは辺境伯のもとへ嫁ぐこととなってしまったのだった……。
★
王都のはるか北に位置し、山々に囲まれた辺境領。
温暖な気候で過ごしやすい伯爵領から数日かけて向かったそこには、まさしく辺境と呼ぶべき光景が広がっていた。
馬車から降りると少し空気が冷えていて、くしゃみが出てしまう。
イザベラの言ったことは正しい。19歳になってもわたしへ結婚の申し込みはひとつもなかった。
人と話すことが苦手という点は、社交界において致命的な欠点。夜会へ参加しても誰とも交流を深めることができず、ここ最近は参加すら見送っていたくらいだ。
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