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そんなわたしが変わり者と噂される御方の妻となれるのか、不安でいっぱいだ。
伯爵家の御者に挨拶をして、馬車を見送る。
伯爵家の者が誰もついてこなかったのは当然だ。皆、こんな遠くまでわたしのために来ようとは思わないのだ。
嫁入り道具として持たされた大きな鞄を両手で持ち、なんとか玄関まで歩いた。
こん、こん。
ライオンの形を模したドアノックの輪を叩いて報せるも、何も返ってこない。
「……帰りたい……」
気持ちが口から漏れてしまった。今さら帰ってもわたしの居場所はないというのに。
というか、もしマティアス様から気に入らないと離縁を突き付けられた場合、わたしはどうすればいいのか。今から修道院を調べておいた方がいいだろうか。考えれば考えるほど不安すぎて眩暈がしてきた。
そのとき。
「遠路はるばるご苦労だった!」
「!?」
不意に大きな声をかけられて、勢いよく背筋が伸びる。
恐る恐る振り返ると、そこには作業着姿の精悍な男性が笑顔で立っていた。手には大きな農作業道具らしきものを持っている。
「疲れているだろう? 夕食の時間までは休んでいるといい」
「あっ、あの……?」
「これはすまない。私が辺境伯マティアスだ。君は、ヘンリエッタ嬢だね?」
何度も頷いてわたしは肯定する。
……それにしても想像していた辺境伯のイメージとはずいぶんかけ離れている御方だ。
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