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陽に灼けた肌。頬には泥がついている。
つばの広い帽子の下から伸びているのは艶のある黒髪で、後ろでひとつに束ねているようだ。
瞳の色は、王都では珍しい若草色。きらきらと輝いていて、……眩しい。それなのに、目が離せない。
「故郷から離れて心細い思いをさせるかもしれないが、私の元へ来てくれた以上は大事にするから、安心してほしい」
大きな歩幅でマティアス様が近づいてくる。
がっしりとした体つきで、男性慣れしていない身としては少々怖いものがある。
マティアス様はすっと手を差し出してきた。どうやら握手を求めているようだ。
「よ、よろしくお願いします……」
なんとか手を差し出して握手に応じると、彼は白い歯を見せてにかっと笑った。
「君の部屋も用意してある。メイドに案内させよう」
「ルルと申します。これからヘンリエッタさまの身の回りのお世話をさせていただきます。ご不便なことがございましたら、遠慮せずお申し付けくださいませ」
いつの間にか目の前にもうひとり、ふくよかな女性が立っていた。
年齢は、わたしの母に近いだろうか。メイドと紹介された女性は、マティアス様と同じ作業着姿だった。
「どうぞ中へお入りください。荷物はお持ちしますね」
「は、はい」
屋敷内は伯爵家の館をひと回り大きくしたような作りだった。ようやく見慣れた景色に近いものがあって、少しだけほっとする。
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