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鶏の丸焼き。ミートパイにニシンのパイ。ほかほかと立つ湯気。
薄く切られたパンには野菜が挟まっているし、色とりどりのフルーツには芸術的な飾り切りが施されている。
席へと案内されたわたしは、思わず呟いてしまう。
趣味が料理と説明されたけれど、想像以上の光景だ。こんな料理、伯爵家でも目にしたことがない。
「まさか、これをすべて……?」
「私は何でも自分でやる主義なんだ。どうだ? 飾り切りも初めてにしては巧くいったと思うのだが」
貴族然とした装いに着替えられたマティアス様はしゅっとしてお美しい。精悍な顔つきで、きりっとした形の眉が特徴的だ。
初対面のときとは別人のようだけど、話し方が同じだから認識できた。
さらに驚くことに、テーブルには使用人全員分の食事が並んでいた。
「我が家では身分に関係なく夕食を全員で取ることにしているんだ」
その言葉通り、次々に辺境伯で働く人々が集まってくる。
ルルさんがわたしの隣に座ってくれたのでちょっとだけ安心した。
全員揃ったところでマティアス様は立ち上がった。わたしも慌てて立ち上がる。
「皆の者、今日もよく働いてくれた。紹介しよう――ヘンリエッタだ。私の妻となる」
「おめでとうございます!」
「ようこそ!」
「なんてお美しい!」
「旦那様は果報者ですね!!」
次々に声をかけてもらい、なんだか気恥ずかしくなってくる。
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