変人と噂される辺境伯の身代わり花嫁となりましたが、実は優しい旦那様のつくるあたたかい食事のおかげで幸せです。

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「よろしくお願いします……」 「さぁ、食事にしよう。神の恵みに感謝を。乾杯!」  切り分けられた鶏の丸焼きは、外はかりっと芳ばしく、中はふんわりとして甘みがあった。  パイの具材はこれでもかというくらいにたっぷり詰まっていて食べ応えがある。ミートパイのひき肉は大きくてごろごろしていて、ニシンのパイは初めて食べたけど、生臭くなくてくせになりそうだ。  野菜を挟んだパンは、しゃきしゃきとした葉野菜とふわふわのパンの食感の差がふしぎだけど、ぺろりと食べてしまった。  全員から勧められるままに食べて、食べて、食べた。  お腹はいっぱいになったけれど、ちっとも苦しくはなかった。 「……こんなに食べたのは生まれて初めてです」 「それはよかった。明日の朝もご馳走を用意しよう。早起きは得意か?」  マティアス様の問いかけに、わたしは頷いた。      ★  早朝、陽も昇らぬ時間帯。  マティアス様に連れて行かれたのは、館の裏の鶏舎だった。  鶏が動いているのを見るのは初めてだ。首をしきりに動かしている。騒がしくて、せわしない。  そして、ちょっとだけ怖い。  くくく、とマティアス様が楽しそうに笑う。 「怯えなくてもいい。座っている鶏の下にゆっくりと手を差し入れて、持ち上げる。そうすれば産みたての卵が隠れているので、反対の手で取る。これだけのことだ」
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