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マティアス様は簡単にやってみせるものの、鶏のつぶらな瞳に見つめられると動けなくなってしまう。
ただ、何もできずにいても、怒られることはなかった。
「ヘンリエッタ嬢、手を出してごらん」
「こうですか?」
するとマティアス様はわたしの手のひらの上に、卵を載せてくれた。
「……温かいです」
「そうだろう。おいおい慣れていけばいい。さぁ、朝食はこの卵を使おうか」
厨房はとても広くて、何十人でも余裕に入れそうだ。見たことのない大きな機械もある。
手を洗い、マティアス様がエプロンを着ける。エプロンはわたしの分も用意されていた。
「鉄のフライパンを温めて、目玉焼きを焼こう」
朝食は、夕食と違って各自で作って食べる決まりになっているらしい。
辺境伯のルールは、ふしぎなものばかりだ。
「先日燻したばかりのベーコンもあるから一緒に焼こうか。脂の旨味で、目玉焼きがさらに美味くなるぞ」
大きなベーコンは艶々としている。
慣れた手つきでマティアス様がベーコンを食べやすい大きさに切り出し、熱したフライパンへ乗せた。
じゅ~。
ベーコンの焼ける音とにおいが昇ってくる。片手で卵を割り、フライパンの空きスペースへ中身を落とす。
「これはやってみるか」
「は、はい」
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