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「最初だし両手でやってごらん。卵を平らなところでぶつけてひびを入れるんだ。そのひびに親指を入れて、勢いよく左右に開いて一気に中身を落とす――そうだ! 上手にできたな。おそるおそるやると、殻の欠片が混じってしまうので、勢いが肝心なんだ」
じゅわ~。
「できました……」
卵が割れた。……このわたしにも? 信じられない。
何をしてもだめだと、うまくできないと、言われ続けてきたのに。
しかも、今、褒められた……?
「パンは昨日の残りを食べてしまおうか。焼いてバターでも塗ろう」
「……もしかしてバターもマティアス様が作られたんでしょうか」
「その通り。正確には、皆で、だが」
マティアス様が椅子を二脚出してくれて、厨房が広い理由が分かった。
厨房でも食事ができるようになっているのだ、この館は。
「神の恵みに感謝を」
「感謝を。いただきます」
ぱく。
「……美味しい」
今まで食べてきたベーコンや卵が偽物なんじゃないかと思えるほどだった。
ベーコンは臭みがいっさいなくて、脂もしつこくなくて、なんだか甘い。
口のなかで弾ける黄身は濃厚で噛むことができそうなくらいだ。
ひたすら咀嚼していると、マティアス様が微笑んだ。
「ここでの生活はやっていけそうか?」
「はい。ですが……」
決して消えない不安がある。
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