変人と噂される辺境伯の身代わり花嫁となりましたが、実は優しい旦那様のつくるあたたかい食事のおかげで幸せです。

9/13
前へ
/13ページ
次へ
「最初だし両手でやってごらん。卵を平らなところでぶつけてひびを入れるんだ。そのひびに親指を入れて、勢いよく左右に開いて一気に中身を落とす――そうだ! 上手にできたな。おそるおそるやると、殻の欠片が混じってしまうので、勢いが肝心なんだ」  じゅわ~。 「できました……」  卵が割れた。……このわたしにも? 信じられない。  何をしてもだめだと、うまくできないと、言われ続けてきたのに。  しかも、今、褒められた……? 「パンは昨日の残りを食べてしまおうか。焼いてバターでも塗ろう」 「……もしかしてバターもマティアス様が作られたんでしょうか」 「その通り。正確には、皆で、だが」  マティアス様が椅子を二脚出してくれて、厨房が広い理由が分かった。  厨房でも食事ができるようになっているのだ、この館は。 「神の恵みに感謝を」 「感謝を。いただきます」  ぱく。 「……美味しい」  今まで食べてきたベーコンや卵が偽物なんじゃないかと思えるほどだった。  ベーコンは臭みがいっさいなくて、脂もしつこくなくて、なんだか甘い。  口のなかで弾ける黄身は濃厚で噛むことができそうなくらいだ。  ひたすら咀嚼していると、マティアス様が微笑んだ。 「ここでの生活はやっていけそうか?」 「はい。ですが……」  決して消えない不安がある。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加