第一部MEMORYS・第一章

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「さっき君が音楽か何かに浸っている時に、ノートを見たの…勝手に見てごめんなさい…でもすごく良かった…うん、良い詩でしたよ…」彼女は思いのほか快活に、そよ風のような声で言った。 「ああ、ありがとうございます…」 「私も歌曲をつくろうと思ってね…でもベースを持っていても、宝の持ち腐れよ…」彼女は何処か慣れた口調で弁じてた。 「歌曲をですか…」 「うん、私も詩を書いているの…でもあまり良いとは思えないもの許り…」 「 嵐の夜   風の強い夜   雨は涙の水溜まりを残した   私はいつまでも泣いていた   なぜ独りにしたの   教えてよ 行くべき道を… 」 「その歌詞ばかり、  私の頭の中に浮かぶの…」 僕は何と言えば良いのか、何ひとつ浮かばなかった。浮かばない許りではない。僕の高慢さは知らず識らずに湧き上がり、水面の泡が破裂した。そのしぶきが、僕の理性をかろうじて保たせていた。人間の人間に対する嫉妬。其れがこれほどまでに、不意に訪れるものなのかと、僕は驚いた。彼女の目は、確かに此方を向いている。時折、下を向くかと思えば、忽ち僕の方へ戻される。なぜ、そこまで純粋な美しさを披露できるのだろうか。だが、その事ばかり気にかけている訳では無かった。僕は彼女がさっき書いていた、Get Backという言葉の意味が分かったような気がした。しかし、同時に彼女だけの持つ感覚ではないとも、さとった。
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