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「あなたも詩を…」
僕は惚けたような口調で彼女に応えた。
「ああ、うん…エドガール・モランの本を参考にしたことさえあったのよ…」
僕は、彼女が記していたビートルズの
Get Backの歌詞が、今、自分の裡で整理されたような気がした。彼女の盲目を打ち砕くために、僕は自分の得たきずきを伝える必要があると思った。伝えたかった、どうしても…。僕は身勝手な行動を認識し、遂に試みるに至った。
「Get Back where you once belonged…この言葉は、あなたが今思っていることなのではないですか?…そう言う意味で、あなたの詩は、と言ってもさっき少し見えて仕舞って、あっ、その切はこちらこそ申し訳ありません…でも、そう言う意味であなたの詩は素敵です…」僕は自分が今、どんなに無責任であるかを恥じた。少し顔が火照てり、すぐに寒気がした。
彼女はただ微笑していた。
「ありがとう…君も師匠みたいな事を言うのね…」
「師匠さんですか…?」
「うん、昔は大学の教授だったけど、今はアカデミックな場から外れて活動しているの…文学者よ…彼、歩くのが速いから、先生って声を掛けないと、私の前を素通りしてしまうの…」
「僕の言うことは、その人には及びませんよ…僕に文学的素養なんて…」
「先生曰く、それは意匠の問題だってことですよ…文学だって文学だけで語れるものじゃない筈だもん…」
「ああ、文学だけでは語れない、ですか…なるほど…」
僕は彼女の言ったことに、半ば蒼ざめた。だだっ広い原に、自分という存在が沈みゆくような、そんな感覚が僕を暫く襲い続けた。
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