第一部MEMORYS・第一章

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第一部MEMORYS・第一章

僕にも、多分人並みに高い壁を無意味に形成し、時に粉砕したり、しなかったり。そんな人生を送る時期があるのかも知れない。                        坂口圭悟  白昼夢を見ていた。半ば朦朧とする認識の只中で、町の音を聴いた。僕は両耳に人差し指と中指とをそっと置き、その細勁な旋律を辿った。ツクツクボウシがニ.三匹共鳴し、葉のゆれる音が充満する中、僕は誰も通らない時刻、交差路の垣根の手前で立ち止まったままでいる。駅まで歩く。駅を取り巻くビルには学習塾が顔を揃え、コンビニと古い感じの良いカフェとケーキ屋があった。利便性は良いが寂しい感じもする。僕が学生の頃は、それがあるべき姿であり、それこそ青春なのだ!そう思う人も少なくなかった。その時から53年経って、僕は駅の東口に立っている。毀れ陽のゆらぐホームに立っていたあの娘。今はどうしているのだろう。僕は、胸の辺りに重りが加わるのが分かった。それと共に、僕の心配など要らないのではないかと思った。  
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