第一部MEMORYS・第一章

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 あの年は、やけに暑かった。あの年から数年、徐々に暑くなっていった。僕は千葉県内の高校に通う2年生だった。僕はあの日、駅のホームで鞄を下に置き、ベッドの上で底に投げ入れたニ・三冊の本を読んでいた。販売機で一番安いお茶を買った。お茶で本が濡れないようにビニール袋でペットボトルを包んだ。 僕はふと時計に目をやる。頻繁にやる。列車が来るまで、まだ15分ほどあった。 ポー、ポー… 豆腐屋の軽トラックが西口を通った。 久々にその音を耳にして、なんだか開けた草原にでもいるような気分になった。 圭悟は辺りを見回していた。そう言う癖が昔からあった。 僕の他に、4人ほどの高校生が、ホームにいたと思う。僕はこれから五反田に行く。それは、2023年8月25日、カフェ・ブリコラージュにて行われるサイン会へ行くのだ。千葉駅から電車に乗り継ぎ、山手線に乗り換え五反田駅に着いた。  僕はよく時間について考えていた。しかし、過去・現在・未来とあって、漠然と流れていく時間というものは、なぜ無くてはならなかったのだろう。中学生のころ、理科の先生と授業前の空き時間によく話していた。その時、先生はバートランド・ラッセルの5分前仮説について話してくれた。それが、時間について考える切っ掛けである。全ては何々時間前に、今まであったようにつくられた。そのことを知り、当時の僕は大いに興奮した。 なるほど、それが時間の始まりか…。 しかし、時間は何故存在することになったのか分からない。時計の示す時間と、例えば我々めいめいが体感する時間。あるいはオペラ劇中の時間発展。此れ等は、同じかと言われれば、そうではない。偶々本屋に立ち寄って、ある物理学者の本を手に取ったことがある。それには時間など存在しない!と堂々と書いているのだ。なるほど、時間は存在しないのか。この説は僕の気に入ったが、僕は少し腑に落ちなかった。 ただ、この人が言っていることには、一理あるとも思っていた。それが真実かも知れないと思っていた。僕はそのことについて、悩み続けていたのだ。  
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