第一部MEMORYS・第一章

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僕は五反田駅からソニー通りに出た。 ラーメン屋や定食屋の並ぶビルの腹部を眺めると、cafe bricolageの文字があった。あの時代は、道に障害物走よろしくな珍物が犇めいていた。少し時間を間違えば人混みは著しかったかも知れない。僕は人混みが苦手だった。遊園地などごもっともだ。あれは多分40代の中頃だったと思う。僕はふっと、ある考えに至った。人には承認が必要だ。承認が無ければ批判が無ければ、そう簡単には進めない。そういうものが見られない時代、人は生き急ぐ。承認を渇望する人々の世は、滑稽な肉体の動きさえ出来ない。だから、人混みが苦手だった。歩くことさえ、立ち止まって木立を眺める事さえ侭ならない。それを僕は、王子の新しい服効果と命名した。もとより、人混みにめり込むと憂うつになる性格ゆえ、どうにもこうにも出来ないのだが、僕は詩を書く。詩を書くときは、すこぶる健全なのである。しかし、あまりに高慢な肉々しさを棚引かせていると、それは人間が利己的に振る舞うことに他ならない。何かに対して寛容であったり、感受、感動したこと、その先が無く、途絶えてしまう事がある。だから青い王子に、「お前は裸やぞ」と言える自分が必要である。そう、僕は思った。詩を書くこと。その効果効能などと言う現行人の喜ぶ俗物性などとは、関与していない事を此処に示し、改めて詩を書くことで、自分では潔しとしない事に志向することが出来ると、僕は思う。そうしている。もっとも、高校生の頃の僕には、そんな考えは微塵も無かった。  
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