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一人また一人と、サインがされていく。そして僕は井坂さんの前まで来た。
「このメッセージを書いたりしたのは、君?」と、井坂さんは僕に訊いた。
僕はカフェの入り口にある著者へのメッセージ用紙、とは言ってもB5サイズのコピー用紙だが、それにメッセージを書いたのだ。僕は、「ああ、はい」とだけ応えた。
「もしかして、受験生だったりする?」
「いいえ、2年生です」
「因みに文理どちらを受けるつもりなの?」
「文系です」
「それなら大丈夫だ、世界史とかは、カタカナを覚えるだけだからね」
「はあ…」
僕と彼は、そんなやりとりをして、サインに入った。
「名前も書きますか?」と彼は言った。
井坂さんのサインで名前が書いて貰えるならと思い、お願いした。
「はい…坂口圭悟です…」
「坂口圭悟君ね…」
彼は流れるようにサインをした。苗字は辛くも分かるが、下は蛇の様である。
「はい、どうぞ…」
「ありがとうございます…」
井坂さんは、その様なやりとりを一人ひとりに試みていた。
元いた場所に戻ろうとすると、一人の参加者が段ボールに "猛者の会" と書いて、掲げていた。僕はその人に、猛者の会について、訊いた。彼が言うには、翌朝まで、このカフェで、あれこれ話すなり、呑むなりするらしい。僕は親から門限を言われてないので、連絡だけ入れておいた。
父からは、カフェの方が書籍が安いから、ついでに一冊買ってきてくれと言われたので、承知した。猛者の会に参加しよう。そう思い、僕はまた床に腰を下ろした。さっきの女性も、まだ何やら書いている。僕は又、彼女の後にそっと座った。誰かに向かってではないが、僕は軽く会釈をした。向かいのビルの窓には車のテールライトの微かな反射が覗えた。
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