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浜辺を出て道路を渡ったすぐのところに、ちょっとした休憩所がある。一応お土産屋さんもあるけれど、観光客はまばら。夏休みなのに寂しいものだね。
海は綺麗だし温泉地も近くにあるのに、廃れていて観光地として全然機能してない。私が幼い頃はもう少し栄えてたと思うんだけどなぁ……。
自販機でジュースを買って休憩所の椅子に腰掛け、私は一人そんなことを考える。
冷房が効いてて、すごく涼しい。最初からここに来ればよかった。
「はあ」
と、一人ため息をつく。そのときだった。
「君の気持ち、僕にも分かるよ。ほんと、寂しいよな」
「……えっ?」
突然誰かに話しかけられた。驚いて振り向くと、私の隣に全身真っ白の服を着た男性が座っていたの。
え……なに? いつの間に!? 誰もいなかったよね。ていうか服のセンス、ダサくない?
「だ、誰ですかっ?」
思わず声が無駄に大きくなっちゃった。周りにいた数人の人たちに変な目で見られてしまう。
声をかけてきた男性も、私のリアクションに驚いたのか、目を丸くしている。
やだ、恥ずかしい。私はサッと立ち上がり、その場を去ろうとする。
すると、男性は慌てたように私の前に立ち塞がるの。
「……なんですか? そこ、どいてくれません?」
「えっ、あっ、その」
おどおどしながら、男性はなぜか道を空けてくれない。
なに、この人。自分から声をかけてきたくせにテンパりすぎじゃない?
男の人は私の顔をじっと見つめると、今度はなぜか笑顔になった。
「僕、ハクトって言います」
「はい?」
「君の名前はなんですか?」
ハクトと名乗ったその人は、顔を真っ赤に染めている。
なによ……もしかしてこれってナンパ? やめて、人生初のナンパが全身真っ白コーデの怪しい人からだなんて。
顔を背け、私は返事を一切しなかった。出口へと歩き出し、男性を素通りしようとする。
「ま、待ってよ。君とお話がしたいんだ」
ついてこようとするから、私は大きく首を振った。
「嫌です! 知らない人に名前を教える義理はないし、お話することもありません」
私がきっぱりそう言うも、男の人はなぜだか更に表情をパッと明るくした。
ちょっと。喜ぶようなことじゃないでしょ? 本当に変な人だ……。
私は逃げるようにして、ダッシュでその場を立ち去った。
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