2・白兎の魂は自らを神と信じる

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2・白兎の魂は自らを神と信じる

◆  その後、私は浜辺に戻ってユウシたちに事情を説明し、すぐさま帰りの車を出してもらった。  帰宅中、車内でユウシはずっと「お前をナンパする奴がいるなんて信じられない」みたいなことを言っていた。  失礼ね。私だって田舎者のわりには、お洒落とかには気を使ってる方なんだから……。  私が悶々としてると、ユウシのお兄さんが「ナツキちゃんだって可愛いんだから、言い寄る男がいてもおかしくないだろ」なんてフォローを入れてくれる。  ユウシは苦い顔をして肯定も否定もしなかった。なんだかその態度にもイラッときてしまう。  家の前まで送ってくれると、お兄さんは先に自宅へと帰って行った。ユウシは私の家に寄ってく、とか言って降りちゃったけど。  いや、あんたも帰りなさいよ……。  玄関へ向かうと、縁側にばあちゃんが座っている姿が見えた。窓を開けて、せんべいを頬張りながら寛いでいる。 「おや、ナツキ。おかえり。ユウシ君たちと遊びに行ってたんだねえ?」 「ただいま。ていうかばあちゃん。こんな暑いのに日向ぼっこするのは危ないよ。部屋の中で涼んでなよ」 「外の空気を吸うのがいいんだ。部屋に籠りっきりだと気分が落ち込むからねぇ」 「だったら夕方とか涼しい時間に外出しなよ?」  私がばあちゃんと話していると、ユウシが横入りしていらぬことを口にした。 「ナツキのばあちゃん、聞いてくれよ。今日、ナツキがナンパされたんだってよ!」 「え、ちょっとあんた。また余計なこと言って!」  私が慌ててユウシの口を塞ごうとするけど、まあ遅いよね。  ばあちゃんは私の顔を見てしわしわの顔に更にしわを刻んだ。 「ほう。ナツキも年頃の女の子よねぇ。モテることはいいことよ」 「そんなんじゃないでしょっ」 「おおー、お前照れてるのか? なんだっけ、その男。全身真っ白コーデでやたらテンパってる奴だったんだよな! おもしれぇ男に言い寄られるんだなあ」  揶揄ったような口ぶり。  もー。うざいなぁ!  私たちが話す中、ばあちゃんはなぜか急に神妙な面持ちになった。こんな猛暑にあったかいお茶をひとくち飲んで、ゆっくり言葉を紡いだ。 「全身白い服を着た男の人、だって……?」 「うん。変でしょ。今時、見たことないよね」 「ナツキ。その方の名前は聞いたかい?」 「ええっと。たしか、ハクトとか言ってたなあ」 「……ハクト」  私がその名を口にした瞬間、ばあちゃんは急に涙ぐむ。肩を震わせ、両手で顔を覆いはじめた。 「ど、どうしたのばあちゃん?」  急に泣き出すばあちゃんに、私もユウシもかける言葉が見つからない。  鼻をすすりながら、ばあちゃんは更に続けた。 「ナツキ……お前が会ったその人は、神様だ」 「えっ?」
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