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ちょっと、なに言ってるのばあちゃん?
思いもよらない話に、私は固まってしまう。
隣でユウシも口をぽかんとさせてる。
でもばあちゃんは至って真剣なの。
「いや、違う。正しくは、自分のことを神様だと勘違いしている白兎の魂だ」
「なになに。どういうこと?」
「昔々の話だ。あの海岸付近に住み着く、一羽の白兎がいたんだよ。海を渡ったところに島があって、そこに仲間がいるからと無理をして泳いだんだ。でも途中で溺れてしまってね。それを助けた神様が現れた。白兎は神様に多大なる感謝の気持ちを向けた。自分も同じように誰かの助けになります、と約束したんだ。神様に倣って人々を守り続けるうちに、いつの間にか自分自身が神なんだと思い込むようになってね……」
「なにそれ。単なる神話かなんかでしょ?」
「わしも若い頃はそう思っていたよ。ハクトに出会うまでは……」
まるで過去を懐かしむように、ばあちゃんは目を細めるの。妄言をしているなんて到底思えない。
「ハクトと出会えるのは限られた人間だけだ。たとえ見えたとしてもその夏の間のみさ。秋になるとその姿はすっかり見えなくなって、次の夏になっても二度と会えない」
わしもナツキと同じ歳の頃にハクトと出会ったんだよ。と、ばあちゃんは嬉しそうに話をする。
なんか、あんまり信じられないなぁ。
でもユウシはそうでもないようで、身を乗り出した。
「すっげえ、俺もハクトに会ってみてぇ!」
「とは言ってもねぇ。なかなか難しいんだよ。どうすれば出会えるのか、わしにもハクトにも分からんからねぇ」
「ちぇ、つまんねぇ。俺も会いたかったなー全身真っ白コーデの神様に!」
ニヤニヤしながらそう言うユウシを見て、なんかイラッとしてしまった。
「もういいわ。ユウシ、あんた今日はもう帰りなさいよ! 結局アイス奢ってくれてないし!」
「ははは。早く車に乗せろ、とかお前が急かすからだろ。明日奢ってやるから怒るなって」
「絶対よ」なんて生返事をしたけれど──待って、それってまた海に行かなきゃならないの? めんどくさ。
空を見上げると、いつの間にか曇り空になっていた。
「台風が近づいてきているねぇ」と暢気に言うばあちゃんをどうにか室内に移動させ、私はその日仕方なくかき氷を作って身体を冷やした。
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