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3・神様(自称)の力
◆
なんだかんだ翌日も海に連れ出されたんだけど、風がすごく強かった。砂浜の砂が舞い散って身体のあちこちに当たる。目に入るし痛いし、とんでもない。
それに今日は波が荒めだ。ユウシたち、ノリノリでサーフィンやってるけど大丈夫かな?
「どうだ、ナツキ! 俺、大会で優勝できそうだろ?」
「さあ。どうだろうねー?」
そう返事をしてみたけれど、ユウシはお兄さんと波に乗ってはしゃいでいて、あまり私の声が届いてなさそう。
暇を持て余し、一人で砂に尻をつけて座っていると──突然、真横に何かの気配がした。
「こんにちは」
「え……?」
振り向くと、そこには全身真っ白コーデの男……いや、神様と勘違いしてる白兎の魂(だっけ?)ハクトがいた。
「うわ、またあなた!」
驚きのあまり、心臓が飛び跳ねる。
またもや周囲にいた人たちに変な目で見られてしまう。でも、波乗りに夢中なユウシたちには気づかれてないみたい。
胸を押さえつけ、私は小声になる。
「急に現れるの、やめてくれない?」
「あはは。ごめんごめん。嬉しくて、つい」
嬉しくて? それって……私があなたと話せるから?
ハクトは微笑みをこぼす。おっとりした眼差しで、じっと見つめてくるの。
「ねえ、君の名前を教えてよ」
「えっ」
「僕の姿が見えるんだよね? よければ友だちになってくれないかな。……夏の終わりまででいいから」
その一言を口にしたとき、ハクトは一瞬だけ悲しげな目をした。
断る前に、私の口は勝手に開いていた。
「……ナツキって、言います」
私が初めて名を告げると、ハクトはまた明るい顔になるの。
「ナツキちゃんか! とてもいい名前だね」
うーん。なんか……たぶん、悪い人じゃなさそう。いや、神様だと勘違いしてる白兎の魂か。
「ねえ、ナツキちゃん。聞いて。実は僕、神様なんだよ」
あまりにも無邪気に言うものだから、私は否定せずとりあえず「そうなの?」と返す。
「何千年も昔から、この近辺の人々を守っているんだよ」
「それは、すごいわねぇ」
「だけどみんな僕の姿は見えないんだ。夏の間だけ、奇跡的に僕の存在を認識できる人と出会える。半世紀ぶりだよ、僕のことが見える人と会ったのは」
「え……半世紀ぶり? そんなに?」
「うん。なかなか僕に気づいてくれる人がいないんだ。前に会ったのは、おっとりしていて優しい女の子だった。ユキエちゃんって言うんだ」
「ユキエ……」
それは、私のばあちゃんの名前だった。
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