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私が止める間もなく、ハクトは更に海の方へ歩いていく。波は荒く、陸風も強くなってきた。こんな状態で助けに行くなんて無謀だ。
「待って、ハクト!」
彼の背に向かって叫んだ瞬間。
突如として、閃光が走った。あまりの眩しさに、思わず目を細める。
唐突に、海風が強く吹き上がった。ざざーっと波の音が激しく鳴り響くと同時に潮水の匂いが運ばれ、私の鼻の中を刺激した。
思いがけない衝撃に肩の力が入る。
「──ナツキちゃん、どうしたの?」
「え……?」
「そんなに震えて大丈夫?」
お兄さんの声に、私はゆっくりと瞼を開ける。すると。
「あれ、どうなってるの……?」
目の前には、心配そうな眼差しで私を見るお兄さんの顔。その隣には──
「ユウシ!?」
まるで何ごともなかったかのように、立ち尽くすユウシの姿があった。
「なんで、どうしてあんたここにいるの?」
「はぁ? なんだよナツキ。俺、ずっとここにいただろ?」
「だって……さっき波にさらわれてたのに」
「何言ってんだよお前。サーファーである俺が溺れるわけないだろ!」
どういうこと? 冗談でしょう?
でもユウシが嘘を言っている様子はないし、お兄さんでさえも私を見て困った顔をしているの。
「ナツキちゃん。疲れてるんじゃない? あっちの日陰で休んでいてよ。ごめんね、暑い中付き合わせちゃって」
「あ。いや、その……」
もう少しだけ波に乗ったら帰る、と言ってユウシとお兄さんはボードを持ってまた海の方へと駆けていく。
……あれ? おかしい。
私は更なる違和感を覚えた。今の今まであんなに荒れ気味だったのに、どういうわけか波が落ち着いてる。「こんなに波が小さかったらやりづれぇな」「台風が近づいてるなんて嘘みたいだ」なんてユウシたちは嘆きながら海へと入っていく。
「どうなってるの?」
私が混乱していると、隣に人が……いや。彼が現れた。もう、驚く気にもなれないよ。
私はハクトの方を振り向き、静かに口を開いた。
「まさか、あなたが……?」
私の問いかけに、彼はゆっくりと頷いた。
ハクトは海に向かって歩いていったというのに、服が全く濡れていない。それどころか、足元だって綺麗なままだ。
……そっか。そういうこと、なんだよね?
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