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「へー。どっから来たの」
「東京。行ったことある?」
「あるよ。一年生のときディズニーいった。涼くん家といっしょに。つぎの日にスカイツリーにものぼったよ」
「えーいいね。りょうくんってお友達だ」
「うん……親友……」
「親友かあ、いいねえ」
「おねえさんも親友に会いにきたの?」
「うーん」
祥子が背中をそらしながら頭の上で両手を組む。
「親友じゃないかな。男に会いにきたの」
「ふーん」
「ケンカしちゃってね」
祥子は傍の小石をつまみあげると、「えい!」と河原に向かってなげた。
「ぼくもね、ケンカしたの、涼くんと」
「え? 信太くんも? 仲良しなんでしょ?」
信太は左に置いていた青いランドセルを開くと、手を突っ込み、ごそごそとしてから「これ」と、紙を一枚取り出した。
祥子に手渡す。
「読んでいいの?」
信太がこくりとする。
二つ折りの紙をはらりと開く。
「あー作文かあ、懐かしー。ぼくの夢、三年二組萩原信太。ぼくはしょうらい、警察官になりたいです」
「信太くん、おまわりさんになるんだ。偉いねえ」
「うん。でもね、涼くんが信太にはむりだって」
「どうして?」
「ぼくかけっこおそいから、犯人逃げちゃうって」
祥子が笑いをこらえるように、両手で口元をかくす。
「そんなこと言わなくてもねえ、りょうくんも。それでケンカしたんだ」
「うん……」
ずいぶん前から、明日の花火大会に一緒に行こうと約束していたが、ケンカのせいで行かないことになった。
「おねえさんはなんでケンカしたの?」
「うーん……色々ね。信太くんにはまだ早いかな」
「ふうーん……でもさ、あいにきたんでしょ?」
「そうよ、大事な話があって……そうだ!」
祥子は傍のトートバッグを重そうに持ち上げ膝の上に置くと、右手を突っ込み、がさりとコンビニ袋を取り出した。ビニールがピンと張りずっしりしている。
「信太くん、これ、預かっててくれる?」
祥子がコンビニ袋を二人の間にどさりと置いた。
信太が袋の中を覗き込むと、薄茶色のつやつやした紙の塊が、袋の底にごろりと横たわっていた。
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