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 信太は祥子と手をつないで、秘密の場所に向かっていた。  広い通りを家々の灯りがうっすらと照らしているが、顔を上げれば幾千の星が(またた)いている。東京では味わえない空だ。  祥子は星に向けていた目を、信太に下ろした。 「なんでお巡りさんなの? コナンくんの影響?」 「コナンは探偵だよ」 「そっか。でも、夢なんてすっかり忘れてたなあ……」  田舎暮らしが性に合わなかった祥子は、高校を卒業すると同時に上京した。  原宿のクレープ屋でアルバイト中にモデル事務所にスカウトされ、読者モデルやキャンペーンガールを続けた。歌やダンスのレッスンにも励んだが芽が出ることはなく、生活のため、夜の仕事に就いた。気がつけば、上京から十一年の月日が流れていた。  故郷にも都会にも、祥子の居場所はなかった。  とっぷり日が暮れた頃、信太が小さな神社の前で足を止めた。 「ここ」と、祥子を見上げる。  背の高い樹々に囲まれた神社だった。  朱色の塗装が所々剥げた鳥居。鳥居の下で緩い弧を描く薄汚れた注連縄(しめなわ)。本殿の両脇に立つ狛犬は、足を踏み入れるのを拒むようにこちらを見ている。  樹々にすっぽりと覆われた境内(けいだい)は、周囲よりも一段と暗闇だった。  雰囲気に呑まれたように立ち止まった祥子を置いて、信太がすたすたと境内に足を進める。 「待って!」  パンプスのヒールを石畳に叩きつけながら、祥子も信太の後を追った。  祥子が二人分のお賽銭を預け、並んで手を合わせた。 「信太くん、なにお願いしたの?」 「えー? ナイショ。ひとにいっちゃうと神様がきいてくれないんだよ」 「そうなの? じゃ、私もナイショ」  信太は本殿から石畳に下る木の階段を一段跳びで降りると、鳥居には向かわずに、くるりと右を向いた。 「イチ、ニ、サン、ヨン、ゴ」と、大股で手水場(ちょうずば)の方に歩いて行った。  信太は手水場の後ろから顔をのぞかせて「こっちこっち」と、祥子に手招きをする。  祥子がそろそろと足を進めて、手水場の後ろに回り込むと、信太は猫のような四つ這いの姿勢で、太い樹の根本の穴に手を突っ込んでいた。
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