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大人が二人並んだくらいの横幅の樹は、神社のなかでひときわ大きかった。
地面に続く太い幹の根元に、大きな穴が口を開けている。
「ごしんぼくだって」
四つ這いの信太が、幹の穴から光沢のある四角い缶を取り出した。蓋の上には無造作に枯枝が置いてある。信太が枝をどかすと蓋にプリントされたクッキーの絵があらわになった。蓋はまだらに錆びていた。
「おねえさんそれ、ここにかくしてあげる」
信太がべこんと蓋を開けると、キャラクターの描かれたカードやミニカー、松ぼっくりなどが入っていた。
「ぼくの宝ものだよ」
信太はひとつひとつ手にとって、祥子に見せた。
「いっしょにかくしてあげる」
「うん……ありがとう」
祥子が両手で支えるように持ったコンビニ袋を、ゴトンと缶の底に置いた。
信太がガサガサと袋の端を広げて中を覗き込む。
艶のある薄茶色の紙で包んだ横長の塊に興味深々だ。
「ねえ、これなに? お金? なんの宝?」
信太が祥子に顔を向ける。
「うーん……」
祥子は一呼吸おいて「ナイショ」と唇に指をあてた。
「いいよ、ナイショね。ここもナイショだよ」
信太は念を押すように言って缶に蓋をした。
もういちど四つ這いになった信太は、幹の根元の穴に缶を押し込んで、缶の上に枯枝を敷き詰めカムフラージュした。
「これでだいじょうぶだよ」
立ち上がった信太の膝についた泥を、「ありがとう」と、祥子が手で払った。
神社から通りに出た二人は、信太の家の方向に足を向けていた。
「明日、花火大会でしょ? さっきの河原で」
「そうだよ。すっごいでっかい花火がドーンって、すっごいんだよ」
「ここの花火、一度見たかったんだ」
「ほんとに?」
「そう。消える直前にひときわ明るくピカって光る紅輝が綺麗なんだって」
「じゃあいっしょにいこうよ」
「え、いいの?」
「うん」
「そしたら信太くん、さっきの神社の前で待ち合わせしようか」
「いいよ。じゃあ、六じはんね」
「わかった。浴衣もってくればよかったなあ」
「はい」
信太がちいさな右手の小指を祥子に突きだした。
祥子は膝を折って、信太と目を合わせると「指切りげんまんうそついたら針千本飲―ます、指切った」と、約束をした。
「ぼくんちそこだからバイバイ」
信太はときどき祥子の方を振り返りながら、二階建ての一軒家の中に消えていった。
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