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 いつもは広々とした河原に、満員電車のように人がひしめいていた。  水辺に近い特等席のブルーシートに信太はわくわくした。  向こう岸の花火の打ち上げ会場に近く、何人もの人が動いている影が見えた。  信太のパパが二本目の缶ビールを開けた頃、向こう岸からひゅるひゅると光の玉がいく筋も上昇し、すこし間をおいて、ドドンドドンと続けて視界いっぱいの花火が夜空を埋め尽くした。  河原一帯が歓声でどよめいたのも束の間、次々に花火が花開き、河原を虹色に染める。  数万の瞳が吸いついたように夜空を見上げる。  信太も一つも見逃すまいとずっと夜空を見上げていた。  人気アニメのキャラクターの花火には、涼と一緒に大興奮で、すっかり仲直りもできた。  終焉まじかの連発花火は圧巻で、視界の端から端まで等間隔に無数の火の玉が打ち上がり、それが一斉に夜空を明るく染めると、お腹に響く地鳴りのような低音が群衆を飲み込んだ。  最後の圧倒されるほど大きな打ち上げ花火がドンと炸裂すると、向こう岸の街まで昼間のように照らし、信太はぽかんと口をあけ、地上に落ちながら闇に溶けてゆく火の粉が見えなくなるまで眺めていた。  花火が終わり、警察官の誘導に従って大勢の人が一斉に同じ方向に歩き出した。  信太たちは最後尾になり、前には黒山の人だかりで列がなかなか進まない。  歩き疲れた信太は父におんぶをされると、いつの間にか眠りに落ちた。  何台ものパトカーがサイレンを鳴らし、赤色灯で周囲を赤く染めながら通り過ぎて行ったが、信太は夢の中だった。
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