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6
初秋の夜空に向けてひゅるひゅると光が昇り、ドドドンと大輪の花を咲かせた。
「うわー」
傍の娘が声をあげる。
「パパすごいねー」
キラキラした目を信太に向けた。
この日信太は休みが取れて非番だった。家族と数年ぶりに故郷の花火大会に来ていた。
三十年前のこの日、この小さな田舎町で殺人事件が発生した。
犯人は天野祥子、事件当時の年齢は二十九歳。
天野祥子は花火大会の夜八時過ぎ、古川克己に三発の銃弾を撃ち込み殺害した。
古川克己は享年四十四歳で、テレビは痴情のもつれによるものと報じた。
天野祥子は事件の翌日に出頭し、殺人罪で懲役刑となった。
花火大会の翌日に事件を知った信太は胸がざわざわした。
夕方、親の目を盗んで神社に行った。
町の至るところに何台もパトカーが停まっていて、警察官も何人もいた。
自分が悪いことをしているみたいで、神社に着くまで、ずっとどきどきしていたことを昨日のことのように覚えている。
手水場の裏の大木の根元で四つ這いになり、穴に手を入れて、お菓子の缶を引っ張り出した。前の日に押し込んだ時よりも、缶は軽かった。
蓋の上の枝を手で払い蓋を開けると、油紙が開いた状態で、中に包んであったであろう物は無かった。
小学校の高学年になって、あれは拳銃だったんだと思った。
あのとき、もしも祥子と花火を見に行っていたら、彼女は殺人を犯さずに済んだんじゃないのか。
夏の終わりの花火を見るたびに、信太は重苦しい気持ちになる。
「たーまやー!」
隣で合いの手をあげる妻と娘の声で信太は我に返り、夜空に目をやった。
消える直前の花火が、一瞬ひときわ眩しく輝いて、闇に溶けた。
花火は美しくて、どこか儚げだった。
- 終 ー
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