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雄介
汗と香水と制汗剤が入り混じった甘ったるい匂いがする。焦げたみたいな真っ黒な夜空に星がチラホラ見える。
あちらこちらから声が聞こえる。断片的にしか聞き取れないが、皆、楽しそうだった。
アナウンスが花火の始まりを告げる。
「やっとか」
となりにいる、由香里が呟いた。
「時間通りだろ」僕は言った。きっと僕にしか聞こえていない。
夜空を見上げる。「待ってました」「始まるね」「足痛い」「何か食べ物買っておけばよかった」「花火見るの久々だよ」「てか、暑くない?」「タオル持ってない?」「ちゃんと手、握ってなさい」「静かにしなさい」「ちょっと話があるんだけどさ」「仕事休みとれて良かった」
いたるところから声が聞こえる。どこからか煙草の匂いがした。たこ焼きのソースの臭いもした。足元にはかき氷のカップが落ちている。生ぬるい夜風が頬を撫でた。辺りが少しずつ静まっていく。
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