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夜空を引き裂く音が響き、光の線がくねりながら伸びる。一瞬の静寂。色とりどりの流れ星が飛び交うような花が咲き、爆発音を響かせる。由香里が口を半開きにしてそれを見ている。間抜けな口元に対して目は輝いていた。
間を置かず、次から次へと夜空に花が咲く。刹那的な輝きの残骸みたいな白い煙が消える間もなく夜空を彩る。
「やっぱり、すごいな」
由香里がまた僕にしか聞こえない声で言った。
「そうだな」
近くにいる人間に足を踏まれた。痛くはなかった。踏んだ相手を睨んだが、相手は気づいていなかった。僕はため息をついて、夜空を見上げ、
「十一回目だっけ? この花火見るの?」
由香里は夜空を見上げたまま答えない。花火の爆発音が響く。それに辺りの歓声が混じる。
「来てよかった」由香里が呟く。当然、僕にしか聞こえていない。
「だよな。ありがとうな」
僕は由香里の手を握ろうと手を伸ばした。
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