移動式神社の巫女

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 ミーティングに行った面々が戻る頃には、私達は、いつも通りわき目も振らず業務を遂行した結果、ゴールが見え始めていた。  今日は、久しぶりに定時で帰れるかもしれない。そう思うと、さっきまで気になっていた新商品のことは忘れられた。興味を持ったところで、私が関われるのはせいぜい試食と、販売後の売り上げデータ作りだろう。それなら、仕事の山が片付いていく喜びに、地味でも素直に浸りたい。  只今新婚旅行中の茨木さん、小学生のお子さんが骨折をして入院することになった大西さん、帯状疱疹にかかった水戸さん。その三人の不在が重なり、急きょ派遣を入れた経緯がある。 「『渡りに船』派遣サービス」というところから、幸いにも大和さんは、翌日にはもう出社してくれたのだ。しかもたったの九日間でも引き受けてくれて、会社のお財布にも優しかった。  私は薄情なのか? わずか四日で、数年一緒に働いてきた同僚の復帰より、大和さんにこの先も居てほしい気持ちのほうが強くなってしまった。頼んだこと以外にも、簡単な整理や掃除、ホワイトボードは常にきれいにしておく等、とにかく気が効く。ムダに世間話をする必要もなく、あらゆる意味で楽だった。  そんな彼女には、とっつきにくいわけではないのに、頑丈な壁を感じる。一時(いっとき)の派遣社員だから、と言ってしまえばそれまでだけど、気になった。これは、親しくなれるチャンスかもしれない。  結局、私は神社行きを承諾してしまった。
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