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派遣社員の大和さんが来てから、四日経った金曜の午後。商品部の半数以上が、会議室に出払っている。次の冬から販売する新商品のミーティングらしい。
広いオフィスの左側が、私と大和さんだけになり、かやの外に取り残された感でため息をつくと、不意に彼女が話しかけてきた。
「森嶋さん、もしお仕事が早く終わりましたら、一緒に神社に行きませんか?」
余りにも唐突な誘いに、私は一瞬絶句した。
そんな私の反応を見て
「日の浅い派遣が馴れ馴れしくてびっくりしましたか? すみません」
と、彼女は小声で謝った。いや、びっくりしたのはそこじゃないんだけど……。
大和さんは、自分は派遣社員だという自覚のもと、私達フクロウ製菓の社員とは、一線を画してきた。興味本位で「瑠璃ちゃん」と、下の名前で呼んでくる男性社員を、パソコンの強打音で撃退した姿には、とても好感が持てた。ちゃんと自分の仕事をわかっている、清楚で可憐な大和さん。まだ二十二歳だって言ってたっけ。その若さが少々羨ましくはあるけど、妬ましくはない。むしろ、こんな風に初々しかった頃の自分を思い出して、懐かしくなる。
あ、話を戻さなければ。
「いや、馴れ馴れしいなんて思ってないよ。今まで仕事のことしか話してなかったから、ちょっと驚いたの」
意外性は大きかった。けれど、嬉しかった。ただ連日の疲れもあるし、実は悩みもあるし、早く帰ってゆっくりしたい気持ちもある。どうしよう?
「森嶋さん、お忙しいですからね。だから私のような派遣が呼ばれてるわけですもんね」
大和さんは眉間にしわを寄せて、大変ですよね~という表情のまま続けた。
「そんなお疲れのところ申し訳ないんですが、ご都合どうですか? すぐ近くなんです」
どうして、こんなに熱心に誘ってくるのだろう? しかも神社なんて……。なんだか、急に薄気味悪くなってくる。でも、無下にもできずに私は訊いた。
「なんの神社なの?」
大和さんは、まわりに人が居ないことをちらっと確認してから、にこやかに言った。
「行くべきは、縁切り神社です。森嶋さん、きっとすっきりさっぱりしますから!」
まるで、エステかサウナにでも行くような気軽さに、私は再び絶句した。
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