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「ありゃりゃ、こりゃぁ出し抜かれたかね」
目の前にはいかにもなファンタジー異世界の高級魔法官僚風の制服を纏ったのガラの悪い獣人の男。しかしそれは、俺が元日本人の転生者だから思うわけで。
そいつは公的機関の獣人ではない。ひえぇ、獅子獣人だよぉ。
「報告では乳牛獣人じゃなかったか?」
今度は狼獣人。
「こいつ茶色の毛並みだろ。肉牛獣人じゃ売れねぇだろ。でも肉牛獣人にしては小柄だな」
次はコモドドラゴン獣人……っ。爬虫類だけど一応獣人枠である。
そして俺は……。
「あの……ジャージー系乳牛獣人……です」
肉食獣人ばかりで恐怖の中、俺は恐る恐る声を絞り出した。
ジャージー系と言うのは一般的な白黒の乳牛とは違い、茶色い部分が多い。耳は白黒とは似ているけど、しっぽは細長い柄の先が三股に分かれているし、角も頭の上にひとつだけ。
あと、白黒牛獣人に比べてもだいぶ小柄……。肉食獣人に比べたら……。んもぅ比べるまでもない。
「は?ジャージーってなに」
「ふっざけてんじゃねぇぞ、コラッ」
ひいぃ……っ!肉食獣人恐い~~っ!この異世界ケモケモノースに、草食獣人として転生したからか、本能的に肉食獣人は恐い。
因みに人間も存在するが、獣人に比べたら少数派である。
肉食獣人たちに睨まれ、ふるふると震えていたその時だった。
「ボス!」
「ボス、こちらです!してやられました!」
肉食獣人たちがへこへこしながらお出迎えしたのは……。
ひ……ひえぇぇぇっ!!白熊獣人だあぁぁぁぁ――――――っ!
この異世界ケモケモノースでは、最恐と名高い肉食獣人、それが白熊である。
前世白熊がかわいいと言っていた自分を殴りたい。ぶっちゃけ恐い。めちゃくちゃ恐いよ白熊~~っ!いや、前世で愛でていた分、何か白熊に対するチート能力が欲しいよ……。切実にそう思いつつも、恐い恐ろしい白熊獣人を見上げる。
真っ白ふわふわな白熊お耳……もふりた……っじゃないない!いかにもなコワモテ!なのに超絶美形な男は、艶のある白髪をオールバックにしており、異世界ファンタジーのいかにもな高級魔法官僚制服風の、ロングコートを着込んではいるが。
肉食獣人の言う通りだとすると、多分……。いや、確実にボスだ。裏社会のマのつく恐いひと――――――っ!そんでもってその親玉――――――っ!肉牛獣人だと見なされれば重労働に回されるんだろうか。きっと耐えられない。乳牛獣人だと認められても、きっと搾乳工場に回されるんだ、俺えぇ。思えばこの世界に転生して、ろくなことがなかった。
父親は裕福だが母は愛人。因みに男しかいないから、夫夫は男同士、母も男だ。
同じジャージー系だった母は病気で儚くなり、俺の雄ちちを無理矢理搾ろうとする正夫のバカ息子。
でもジャージー初め乳牛獣人は、ストレスで雄ちちが出なくなるから、俺の雄ちちは出ない。それよか不良品の乳牛獣人だと、やっぱりジャージーだと、バカ息子が作った借金のカタに売られる始末。
バカ息子が手を出したのが裏社会のヤバい奴らのテリトリーだったため、俺はこいつらに売られるところなのである。
……ぐすん。
しかし……。
俺を般若の形相で見下ろす白熊獣人。
「ひえぇ……」
こ、恐いよぉ……。
しかし、その時だった。
「ばぶ」
「は……?」
あり得ない声を聞いた。いや、あり得なくもないのだけど。
「ぎゃ――――――っ!ボスがばぶ化したぁ~~~~っ!」
獅子獣人が叫ぶ。
やっぱり……!ボスは……ばぶだった!
「おのれ、ボスの秘密を知ったからには死んでもらうぞ!」
ひえぇっ!
狼獣人が魔法銃を取り出してきたあぁぁぁ――――――っ!!
うわあぁぁ――――――んっ!恐いよぉ~~~~っ!!!
しかし……。
「ばぶ」
ボスが俺を庇うように狼獣人を制止する。そして……。
俺にそのでかい図体を近付けると。
ひょいっ。
俺の身体が宙に浮いた。――――――いな、抱き上げられた――――――っ!?
「ばぶ、ばぶ、マミー!」
へ??それってつまり……!?
『ボスのままんが見つかったぁぁぁ――――――っ!!!』
泣き叫んで喜ぶ部下たちに見送られながら、ボスは颯爽と俺を……連れ帰った。
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