1/1
前へ
/3ページ
次へ

「ありゃりゃ、こりゃぁ出し抜かれたかね」 目の前にはいかにもなファンタジー異世界の高級魔法官僚風の制服を纏ったのガラの悪い獣人の男。しかしそれは、俺が元日本人の転生者だから思うわけで。 そいつは公的機関の獣人ではない。ひえぇ、獅子獣人だよぉ。 「報告では()牛獣人じゃなかったか?」 今度は狼獣人。 「こいつ茶色の毛並みだろ。()牛獣人じゃ売れねぇだろ。でも肉牛獣人にしては小柄だな」 次はコモドドラゴン獣人……っ。爬虫類だけど一応獣人枠である。 そして俺は……。 「あの……ジャージー系乳牛獣人……です」 肉食獣人ばかりで恐怖の中、俺は恐る恐る声を絞り出した。 ジャージー系と言うのは一般的な白黒の乳牛とは違い、茶色い部分が多い。耳は白黒とは似ているけど、しっぽは細長い柄の先が三股に分かれているし、角も頭の上にひとつだけ。 あと、白黒牛獣人に比べてもだいぶ小柄……。肉食獣人に比べたら……。んもぅ比べるまでもない。 「は?ジャージーってなに」 「ふっざけてんじゃねぇぞ、コラッ」 ひいぃ……っ!肉食獣人恐い~~っ!この異世界ケモケモノースに、草食獣人として転生したからか、本能的に肉食獣人は恐い。 因みに人間も存在するが、獣人に比べたら少数派である。 肉食獣人たちに睨まれ、ふるふると震えていたその時だった。 「ボス!」 「ボス、こちらです!してやられました!」 肉食獣人たちがへこへこしながらお出迎えしたのは……。 ひ……ひえぇぇぇっ!!白熊獣人だあぁぁぁぁ――――――っ! この異世界ケモケモノースでは、最恐と名高い肉食獣人、それが白熊である。 前世白熊がかわいいと言っていた自分を殴りたい。ぶっちゃけ恐い。めちゃくちゃ恐いよ白熊~~っ!いや、前世で愛でていた分、何か白熊に対するチート能力が欲しいよ……。切実にそう思いつつも、恐い恐ろしい白熊獣人を見上げる。 真っ白ふわふわな白熊お耳……もふりた……っじゃないない!いかにもなコワモテ!なのに超絶美形な男は、艶のある白髪をオールバックにしており、異世界ファンタジーのいかにもな高級魔法官僚制服風の、ロングコートを着込んではいるが。 肉食獣人の言う通りだとすると、多分……。いや、確実にボスだ。裏社会のマのつく恐いひと――――――っ!そんでもってその親玉――――――っ!肉牛獣人だと見なされれば重労働に回されるんだろうか。きっと耐えられない。乳牛獣人だと認められても、きっと搾乳工場に回されるんだ、俺えぇ。思えばこの世界に転生して、ろくなことがなかった。 父親は裕福だが母は愛人。因みに男しかいないから、夫夫(ふうふ)は男同士、母も男だ。 同じジャージー系だった母は病気で儚くなり、俺の雄ちちを無理矢理搾ろうとする正夫(せいさい)のバカ息子。 でもジャージー初め乳牛獣人は、ストレスで雄ちちが出なくなるから、俺の雄ちちは出ない。それよか不良品の乳牛獣人だと、やっぱりジャージーだと、バカ息子が作った借金のカタに売られる始末。 バカ息子が手を出したのが裏社会のヤバい奴らのテリトリーだったため、俺はこいつらに売られるところなのである。 ……ぐすん。 しかし……。 俺を般若の形相で見下ろす白熊獣人。 「ひえぇ……」 こ、恐いよぉ……。 しかし、その時だった。 「ばぶ」 「は……?」 あり得ない声を聞いた。いや、あり得なくもないのだけど。 「ぎゃ――――――っ!ボスがばぶ化したぁ~~~~っ!」 獅子獣人が叫ぶ。 やっぱり……!ボスは……ばぶだった! 「おのれ、ボスの秘密を知ったからには死んでもらうぞ!」 ひえぇっ! 狼獣人が魔法銃を取り出してきたあぁぁぁ――――――っ!! うわあぁぁ――――――んっ!恐いよぉ~~~~っ!!! しかし……。 「ばぶ」 ボスが俺を庇うように狼獣人を制止する。そして……。 俺にそのでかい図体を近付けると。 ひょいっ。 俺の身体が宙に浮いた。――――――いな、抱き上げられた――――――っ!? 「ばぶ、ばぶ、マミー!」 へ??それってつまり……!? 『ボスのままんが見つかったぁぁぁ――――――っ!!!』 泣き叫んで喜ぶ部下たちに見送られながら、ボスは颯爽と俺を……連れ帰った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加