第1話(1)急な配置転換

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第1話(1)急な配置転換

                    1 『ゲート』……21世紀も四半世紀を経過しようとしたその頃、世界各地に突如として現れるようになった空間に生ずる大きな――その大きさはまちまちであるが――黒い穴を人類はこのように呼称するようになった。  そのゲートからは様々なもの、『イレギュラー』が出現するようになった。大別すれば、三種の恐るべき力を持った存在である。これらイレギュラーは世界各地で暴虐の限りを尽くした。戸惑いながらも人類は連携を取りつつ――100パーセント万全なものとは言い難いが――これらの敵性的存在の迎撃に当たった。人類はその為に構築した迎撃体勢組織を『ゲートバスターズ』と呼ぶようになった。世界各地の大都市だけでなく、地方都市に至るまでゲートバスターズは配備され、彼らの懸命な働きによって、最初期の遭遇から二十年ほど経過した現在となると、大規模な被害は食い止められるまでにはなった。  ただし、肝心のゲートに関する調査についてはほとんど進んでいなかった。ゲートは出現場所がいつもバラバラで、開いている時間も極めて短く、なによりどこに繋がっているのかほぼ不明な為、こちらからの突入はあまりにもリスクが大きすぎるのである。それでも調査に赴いた勇敢なものたちはいたが、いずれも戻ってきてはいない……。  ゲートの出現と関連してなのかどうかは不明だが、世界中で特殊な能力を持った子供たち、乳幼児の存在が数多く確認されるようになった――大人でもそういった能力を開花させる者はいたが、そのほとんどは若年層に偏っていた――その為、世界中の為政者たちは非人道的・人権無視であるなどという非難を受けながらも、そういった特殊な能力を持った子供たちを手厚く保護し、ゲートバスターズの新世代を担うべき存在として英才教育を施すこととした。たった今、通っている学校から、最寄りのゲートバスターズの基地にランニングで向かう赤髪の少年もその『新世代』の一人である。 「はっ、はっ、はっ……到着……!」  若さには似合わぬ重々しさを感じさせる軍服から、情報端末を取り出した少年は基地の門横に設置された出入管理システムに端末をタッチさせる。機械音声が流れる。 「不定期の確認です。お手数ですが、お名前を伺います……」 「疾風大海(はやてたいかい)です……」 「……はい、確認しました。ゲートバスターズ日本支部金沢管区第四部隊所属の疾風隊員で間違いありませんね?」 「え? 第四部隊? そんな部隊はありませんが……」 「どうぞお通り下さい」  門が開く。大海は首を傾げながら、門をくぐった。 「システムエラー? ……報告した方がいいですね」 「大海―!」 「ん?」  大海が目をやると、大海と同じ軍服を着たショートカットの少女が駆け寄ってくる。おでこを出した髪型が特徴的だ。 「ぶえっ!」  ショートカットの少女が思い切りつまずき、おでこを派手に地面にぶつけた。 「だ、大丈夫ですか?」  大海が心配そうに声をかけながら、手を差し伸べる。 「だいじょばないけど……あ、ありがとう」  少女はおでこをさすりながら、大海の手を取って立ち上がる。 「どうかしたのですか?」 「また学校からランニングで来たでしょ、バスから見えたよ」 「ええ」 「交通機関というものを利用しなさいよ」 「体力作りの一環です。鍛えておくことに越したことはないですから」 「それにしてもね……」 「それじゃあ……」 「あ~ちょい待ち、ちょい待ち!」 「え?」 「アンタもこっちだから」  少女は大海が行こうとした方向とは別の方向を指差す。 「どういうことですか?」 「アタシもよく知らないけど、急な配置変換が入ったのよ」 「! 第四部隊とはそういうことですか?」 「ああ、そうそう、それそれ」  少女が頷く。 「なんだってまた配置転換に……」 「アタシも驚いているわ」 「ええ?」  大海が驚く。少女が首を傾げる。 「なにをそんなに驚くのよ?」 「いや、問題ばっかり起こしているじゃないですか……」 「な、なによ! アタシの配置転換は妥当って言いたいわけ⁉」 「極めて妥当かと」 「うるさいな、人よりちょっとドジっ子気質なだけよ!」 「そういう気質がちょっとでもある時点でわりと致命的ですよ……」 「ぐっ……言いにくいことをはっきりと言ってくれるわね……」 「そういう性分なもので」 「まあいいわ、さっさと行きましょう」  少女が歩き出し、大海がそれに続く。二人はすぐに目的の部屋までたどり着く。 「ここですね……旧会議室……」 「ど~ぞ~♡」  大海がドアをノックすると、部屋の中から気持ちの悪い猫撫で声がする。 「失礼します! ……疾風大海です!」 「星野月(ほしのつき)です!」  二人は部屋に入るなり、敬礼をする。 「なんだよ、一人は野郎かよ……」  椅子に座っていた大柄な坊主頭が天を仰ぐ。 「貴方は確か……」 「……古前田慶(こまえだけい)だ」  古前田と名乗った男がゆっくりと立ち上がり、やる気のない敬礼を返す。一応軍服は着ているが、派手な装飾を施している。月が尋ねる。 「古前田さんも……」 「オイラのことは慶でいいぜ、月ちゃん♡」  古前田が月の両手を取る。月が戸惑う。 「え、ええ……?」 「一瞬で距離を詰めた……さすがガールハントにのみ本気を出す男……!」 「感心しているようでディスってんな……後、そういうのは思うだけにしろよ」  古前田が大海に向かって告げる。 「あ、す、すみません……思ったことをつい口に出してしまうもので」 「直した方がいいぜ」 「気をつけます」  月がさりげなく両手を振りほどいて問う。 「……古前田さんもこちらに呼ばれたのですか?」 「あら、心の距離は縮まんなかったか……」  古前田が苦笑する。月が重ねて問う。 「どうなのですか?」 「……ああ、そうだよ。誰が集めたのやら……」 「ボクだよ」 「!」  いつの間にか部屋の中に入っていた軍服をだらしなく着たボサボサの黒髪で細目の青年に三人は大いに驚く。
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