第1話「夏休み最後の日」

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第1話「夏休み最後の日」

「ああ、夏も終わりか……」  私は水平線に沈んで行く太陽を、淡い感傷を込めて見つめていた。 「なんだよ、改まって。……どうした?」  隣を気だるそうに歩くユウキが、あまり興味なさそうに聞いて来た。 「だって! 終わっちゃうんだよ! 夏休みが! パラダイスが! 夢の時間がー‼︎」  私は自分の吐き出した言葉によって、さらに追い詰められた。 「おかしい! この間まで夏休み残り四十日はあったのに! おかしくない⁉︎ 昼まで好きなだけ寝て、好きな時に夕寝して、スイカ食べて、海で永遠に泳いで、ショッピングモール行って、遊園地で遊んで、映画観て、夏祭りに行って、ちょっと旅行に行ったり、都会へ遊びに行ってただけなのにー!」 「めっちゃ、夏休み堪能してるじゃんか。それだけやれば、四十日もあっという間だわ」  ユウキは呆れ顔で溜め息をついた。 「いや! まだまだ行けるよ、私! あー! 夏休み、一生続けばいいのに!」  私は駄々っ子のように、気持ちを吐き出した。大人気ないことは分かってる。でも感情をどうしようも出来ない時ってあるでしょ?   今がまさにその時なのだ。十六歳の夏休みは一生で一度きり。その一度きりが明日で終わるのだ。少しぐらいゴネたって、誰にも文句は言えないはず。……少しじゃないかもしれないけど。 「……夏だけが、楽しいわけじゃないだろ?」  ユウキは、駄々を捏ねる子供をあやす母親のように、私に囁いた。 「夏休み以上に、楽しいことなんてない!」 「言い切るな。でもこれから涼しくなるし、過ごしやすくなるよ」 「私、暑いの好きだもん! それに灼熱地獄の中、クーラーのキンキンに効いた部屋で昼寝するの最高だもん!」 「まあ、それは確かにな……」 「海やプールで泳ぐのも好きだし、夏は大きな花火大会もあるし、屋台で買い食いするの大好きだし、夏野菜美味しいし、冷やしたスイカと桃とメロンたまらないし、夏最高でしょう!」 「……まあな。でも、秋は秋でイベントあるし、秋の食べ物も美味いじゃん。おまえ、栗とか焼き芋とかも好きじゃんか」 「……う。それは好きだけどさ。……でも、夏の方が好きだもん」  ユウキは私の態度に、さらに溜め息をつく。私のあまりの大人気ない態度に、呆れているようだ。  ユウキの前だと、隠すことなく本心がだだ漏れてしまう。うんざりしているかもしれない。でもユウキは、そんな私をいつも受け止めてくれる良い奴だ。 「うちのじいちゃんがさ、働いている時は、毎日休みならいいのにって思ってたらしいけど、いざ、定年後仕事を辞めたら、毎日が休みなのってつまらないって言ってたよ」 「え? どういうこと?」 「労働をしていたからこそ、休みのありがたさが分かったんだって。おまえも、俺も、休み明け、地獄のテストラッシュから始まる、学校生活があるって分かってるから、休みがありがたく感じるってことだよ」 「ギャー! 嫌なこと思い出させないで!」  私が海に向かって叫び声を上げると、ユウキはハハハと笑った。 「それに、おまえの夏休みはまだ終わらないだろ?」 「え?」 「おまえ、夏休みの宿題まだ残ってるんじゃないの?」  ギクッ! 「な……なんで、それを……」 「本当、おまえ、昔っから変わらないよなー」  呆れたユウキの笑い声も、目の前の海と空に響いた。  水平線に沈む夕陽が、夏と重なる。輝きながらオレンジ色の光が吸い込まれて消えて行く。  まるで私の夏休みそのものだ。 つづく
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