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1.
その青年が俺の庵を訪れたのは、積もった雪が橙色に染まる、空気の冴えた夕刻のことだった。
「はりの先生ですね。突然参りました不躾をお許しください。私は陸奥と申します。先生はどのような病でも治してくださるという噂を聞いて伺いました。治療をお願いできませんでしょうか」
つぼんだ番傘を杖のように持ち、紺袴の裾を濡らした青年は、切れ長の目で俺をまっすぐに見据えてそう尋ねた。
とりあえず、妖怪や山賊の類ではなさそうだ。そう判断し、びしょ濡れの青年を三和土に招き入れる。彼は革のブーツについた雪を払い、一礼してから敷居を跨いだ。
「どうやってここへ?」
「汽車で駅まで。山の麓までは人力車に乗せてもらい、そこから小一時間ほど歩いたでしょうか。雪が小止みで幸いでした」
昨夜から降ったり止んだりの天気で、積雪は大人の膝まである。山道にところどころ立札を出しているとはいえ、白銀の山中を一時間も歩いて来るとは。よほど急ぎの治療なのかと、俺は彼の体にざっと視線を走らせた。
顔色は白く肌が乾燥しているが、山を歩いたせいか頬が紅潮し、唇の色も悪くはない。黒い直毛には艶があり、栄養状態にも問題はなさそうだ。ときどき空咳をするが、肺が弱っているような汚い音のするものではない。
外套の下には厚手の木綿の着物。その胸元に、白い立て襟のシャツがのぞいている。袴にブーツという出で立ちから、裕福な家の学生か、屋敷の書生という印象を受けた。
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