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「恥ずかしがるな、女じゃあるまいし。生け垣に立ち小便したことの一度や二度、ないわけでもないだろう?」 「お許しください、このようなところに、出せません……このようなところでは……どうにも、出ないのです。お許しください」 「じゃあいい。出ないものは仕方がないからな。さっさと浴衣を着ろ。明日の朝、麓まで送ってやる」 「先生……っ?」  振り向くと、両手で手桶を握り布団の上に膝立ちになった陸奥が、眉根を寄せて不安そうにこちらを見ていた。 「グズグズするな。はりを使っていないからな、按摩は奉仕にしておいてやる。金はいらないから、着物を着てその封筒をさっさとしまえ」  用意した道具を片付けようとする俺の作務衣の袖を、陸奥がぎゅっと握った。 「先生……先生、すみません。もう一度、機会をください……」 「無理をすることはない」 「お願いします! おっしゃるとおりにしますから! どうかお願いします……っ!」  裾を握っていた手を布団につき、陸奥は深々と頭を下げた。  形の良いつむじを横目で見ながら、俺はふと、伏せたその顔を下から見たいと思った。必死になって頼み込む彼の顔が見たい。人形のように美しい顔が歪むところが見たい。  そんな人非人まがいの欲望に気づかれることを恐れ、俺は手を止めてそこに胡座(あぐら)をかいた。 「ニ分だけ待つ」
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