79人が本棚に入れています
本棚に追加
4.
「先生……」
嗄れた声に呼ばれて振り向くと、布団をかけ仰向けで眠っていた陸奥が、切れ長の目でこちらを見ていた。
明け方近くに意識を失った彼が、失神したのか寝落ちたのかは定かではない。最後に白い背を反らせて大きく跳ね、ぐったりと体を横たえ反応しなくなったのだ。
目を閉じた陸奥が穏やかに呼吸していることを確認した俺は、時折思い出したように痙攣する体を清め、清潔な浴衣を着せてやった。その間も目を覚ますことのなかった彼は、冬の空がすっかり明るくなるまでよく眠っていた。
「おはよう」
糊の効いた馴染みのない浴衣を着せられていることに気づいた陸奥は、「着物を着ていなかった」夜のことを思い出したのだろう。俺が近づくのを見て、慌てて体を起こした。野良猫のように警戒して身構える彼に、俺は足を止めた。
「痛むところはないか?」
「……え?」
「昨夜は無理をさせて、悪かった」
そう言うと、陸奥は気まずそうに浴衣の襟を押さえてうつむいた。
「そこに丹前と綿入れがある。茶を入れておくから、厠に行ったら朝餉にしよう」
最初のコメントを投稿しよう!