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「患者」ならそんなことはない。だがお前は病気ではないだろう。そう言って追い返すこともできる、が、俺は黙して目の前の男を観察した。  表情の変わらぬ、人形のように整った容貌。話すときの口の動きや瞬きさえ、機械仕掛けに見えるほどだ。白磁の肌には痘痕(あばた)も髭をあたった跡もなく、生身の男とは思えぬ滑らかさである。思惑の読み取れない黒い瞳は、底知れぬ闇を感じさせた。  冬の日は短い。すでに外は暗くなってきた。夜の雪山に放り出すことなどさすがにできないし、今夜は泊めてやるしかないだろう。  雪に閉ざされた庵はいささか退屈だ。人と話をすること自体、一月(ひとつき)ぶり。それに俺はこの青年に、興味を惹かれていた。 「治療の一切を口外しないと約束してもらわなければ、施術はできない。俺のやり方は特殊で、理解されにくい。病が治ると噂になるのは構わんが、どんな治療なのか知れ渡ると厄介なんだ」  そう告げると、緊張で強張った陸奥の口元が少し緩んだように見えた。 「決して口外しないとお約束します」 「何をしても文句は言わせんぞ。俺の指示にもすべて従ってもらう」  陸奥はこくりと一つ頷き、無防備な浴衣姿で一途に俺を見つめた。  今ならどんな命令にも服従するだろう。  俺は立ち上がり、土瓶の薬湯を湯呑みに注いで彼の前に置いた。 「じゃあまず、それを飲め。体が温まる。ただし、一気に飲むなよ。体の隅々にまで行き渡るようにと考えながら、一口ずつ飲むんだ」
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