1.

6/6
前へ
/35ページ
次へ
「分かりました。何が煎じられたものか、聞いてもよろしいでしょうか?」 「聞いてもいいが、全ては教えられないな。生姜と桂皮、あとは味から推測しろ。心配しなくても毒草は入れていない」  陸奥は茶碗を両手で押し戴き、黄金色に澄んだ薬湯を見つめている。香りを確かめるように目を閉じ、唇を窄めてふうっと吹いてから(おもむ)ろに口をつけた。  俺は押入れから替えの敷布を出して、敷きっぱなしの布団に掛けた。陸奥が指示どおりに一口ずつ薬湯を飲むのを横目で見ながら、(こう)の用意をする。燐寸(マッチ)で先端に火をつけると、細く白い煙と甘苦い香りが立ち上った。  薬湯を飲み終えた陸奥が、茶碗を盆に戻す。細い脚を前に投げ出し、指示を待ち見上げてくるその眼差しに、先ほどまでよりも艶があるように見える。 「裸になって横になれ。下着も全部だ」  はりの施術に、真裸になる必要があるのか。そんな質問をされたら仕舞いにしようと思ったが、彼は眉一つ動かさず「はい」と小さく答え、俺に背中を向けた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加