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 部屋に甘苦い香りが充満している。高級遊郭ご用達の(こう)は、催淫効果を含む特別仕様だ。体を芯から温めるのに、性的興奮は都合が良いからだ。  両脚の按摩を終え、俺は陸奥の腹の上に跨がった。 「体重はかけないようにするが、もし苦しければ言ってくれ」  薬湯と香で温まった胸に触れると、陸奥はピクリと肩を震わせた。油を塗った指先が桃色の乳首を(かす)る。刺激を受けたそれがぎゅっと凝縮するように尖り、紅梅色に変わる。が、変化を見せたのは体だけで、彼の表情は涼しいままだ。尖った蕾を手のひらに感じながら胸の按摩を続けていると、陸奥が(おもむろ)に口を開いた。 「先生は、女性にも……このようになさるのですか?」 「患者に男も女もあるか」 「失礼を申しました。お許しください」  謝ってもただ目を伏せるだけで、彼の表情はほとんど動かない。  ふと、無粋な興味が頭をよぎった。この青年も女性と恋に落ち、身を焦がしたことがあるのだろうか。甘い快楽に溺れ、顔を歪め、喘いだ経験があるのだろうか、と。  そんな興味を腹の底に押し込め、俺は黙々と按摩を続けた。胸は充分に温まり、硬く冷たいところはない。両手を徐々に下ろしていくと、下腹を押したところで陸奥の体にグッと力が入った。ふと見れば、彼は少し眉根を寄せ、わずかに顔を逸らしている。  ああ、そうか。  陸奥が汽車を降りてからここに着くまで二時間弱。冬山の寒さに晒され、彼の膀胱の筋肉はさぞ縮こまっていることだろう。 「すまない。ひとつ、大切な手順を忘れていた」
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