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里佳子が姿を消してからそろそろひと月が経つ。店長には電話で退職するとの申し出があったらしい。しばらく足が遠のいていた常連客も戻りつつあり翔太は毎日忙しくしていた。
(あれからしばらくは里佳子が突然現れるんじゃないかと冷や冷やしてたけど……。もう大丈夫かな)
軽く首を横に振り施術に集中する。
「ありがとう、気に入ったわ」
カットを終えた客が笑顔で店を出て行く。
「またのご来店、お待ちしています」
見送りを終え店に入ると床に散らばった髪を見て眉を顰めた。あの一件以来どうもカットされた髪に嫌悪感を覚えてしまう。
「加奈ちゃん、カット後の掃除お願いね」
新しく入ったアシスタントに声をかける。
「あ、すみません、すぐやりますね!」
翔太は軽く首を横に振りその場を後にした。
(翔太さん、素敵だな。彼女、いるのかなぁ)
加奈はうっとりとその後ろ姿を見つめる。
(あ、いけない。掃除、掃除、と。それにしてもさっきの人、随分切ったんだなぁ)
床の上でのたうち回るようにして散らばる長い黒髪を見て加奈は思う。
(髪は女の命っていうけど……ずいぶん命削っちゃった? ふふ、そんなわけないか)
掃除をしながら加奈はふと思う。
(翔太さんを指名するお客さんって綺麗な人が多いよね。何か……むかつく)
掃除の手を止め、ぎゅっと唇を嚙んだ。
(みんな来なくなっちゃえばいいのに。あ、そういえばこの前ネットで見たっけ。確かrikakoって人のSNSに書いてあった、邪魔な女を遠ざける方法! ええと……〝呪い袋〟の作り方)
加奈は床に散らばった長い髪を見てニタリと嗤った。
了
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