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「あ、翔太に予約入ったよ。うわ、またあのオバサンだ」
「里佳子、お客さんにそういう言い方はよくないよ」
翔太はそう言って軽く眉を顰める。
「だってさぁ、何だかいっつも鏡に映る翔太のことじっと見ちゃって……きもいきもい。ま、予約表に入れとくから。佐藤美沙、と」
佐藤はこの美容室の常連だ。確かにカットされている間、鏡の中の翔太をじっと見つめていることが多い。
「でもさ、いくら相手が女だからって油断しない方がいいよ? ストーカーって何するかわかないからさぁ」
「そんな大げさな。話してみると結構いい人だぜ?」
「やぁだ、翔太ってばあんな小太りのオバサンがタイプなの?」
「あのなぁ、俺を指名してくれる貴重なお客さんってこと。それだけだよ」
「何言ってんのよ。人気スタイリストがさぁ」
「いやぁ……最近俺を指名してくれるお客さん、来られなくなることが多くてさ。この前も高橋さん、交通事故に巻き込まれて当分入院だって予約のキャンセル入ったし」
最近、常連さんの足が遠のきつつある。しかもその理由が皆、不幸な出来事に巻き込まれてのことだというのが気にかかっていた。それを聞いた里佳子が大げさに体を震わせ自分の肩を抱く。
「やだ、怖い! それってさ、あれじゃない? 佐藤の呪い!」
「何だよ、それ」
苦笑する翔太を上目遣いに見上げながら里佳子はニタリと嗤う。
「翔太に女が寄り付かないように呪いかけてんのよ、きっと」
「よせよ、俺そろそろ上がるわ」
「私はあると思うよ、呪いとかって」
「はいはい。女の人はそういうの好きだねぇ。ま、お疲れさん」
不満げに口を尖らせる里佳子を置いて翔太は店を後にした。
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