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佐藤美沙の予約日当日、翔太は少し落ち着かない気分でいた。
(里佳子のやつが変なこと言うから妙に意識しちまうじゃないか)
相変わらず佐藤は鏡に映る翔太の顔を思わしげに眺めている。だがいつものように特に話しかけてくることもなく施術は終了した。
「はい、お疲れ様でした」
「ありがとうございました。あの……」
何か言いたげにしている佐藤と翔太の間に里佳子が割り込んでくる。
「あら、佐藤さんよくお似合いです!」
佐藤がハッとしたように里佳子の顔を見て表情を固くする。
「ど、どうも……」
まだ何か言いたげにしていたが里佳子がドアを開け「またのご来店お待ちしております!」と頭を下げると美沙は渋々といった体で店を後にした。
「ほらぁ、やっぱり怪しいじゃん。絶対翔太の連絡先とか聞こうとしてたんだよ、あれ」
里佳子がフン、と鼻を鳴らす。
「そうかなぁ……。ま、いいや。次のお客さんまでちょっと休憩取るわ」
「あ、待って。ねぇ……今度の休み、予定あいてる?」
「うーん、ごめん確かその日は何か入ってたと思う」
ほんの僅かに頬を赤らめた翔太が申し訳なさそうに視線を逸らす。
「なぁんだ、了解」
翔太の後ろ姿を見送りながら里佳子は大きくため息をついた。この店に入ってから何度か誘っているのだが、なかなかタイミングが合わない。
(彼女がいないってのはわかってるんだけど。本当に忙しいのか、店の外でまで女の人と会うのが嫌なのか……よくわかんないや。でも今もちょっと顔が赤くなってたから照れてるのかなぁ。それか、佐藤みたいな女のせいで慎重になっちゃってるのかもしれない。可哀そうな翔太)
ふと鏡に映る自分の姿を見て(私と翔太ならお似合いだと思うんだけどなぁ)と二人で歩く姿を想像して微笑む。
「里佳子ちゃん、シャンプーお願い」
店長に呼ばれ「はぁい」と返事をしながら里佳子は仕事に戻った。
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