狡いよ、意気地なし

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 俺が、高校を卒業と同時に一人暮らしをすると言ったら、当たり前のようについてきた。その時はまだ、蒼弥はただの弟で、コイツの想いにも気づいていなかった。  実家からも近く、蒼弥は俺の家と実家を行き来する。けれど、週の大半は俺の家で過ごすから、実質2人暮らしだ。  いつまでも兄離れしない、面倒な弟だと思っていた。しかし、それはある日を境に一転する。  俺がサークルの新歓で帰りが遅くなった日。寝ずに待っていた蒼弥の様子がおかしかった。いつもは底抜けに明るいのに、まるで夜叉のような形相で俺を出迎えた。  何か、怒らせるような事をしただろうか。その程度に思ったが、直後に思い違いだと気づく。  俺の胸にしがみつき、服のにおいを嗅ぎ始めた。俺は驚いて、蒼弥の肩を掴んで押し離す。  怪訝そうな表情で俺を見る。その目には見覚えがあった。  あれは、俺が高校に上がってすぐの頃。俺に初めての彼女ができた。浮かれた俺は、蒼弥に自慢したくて彼女に会わせた。  俺の部屋で顔合わせをし、飲み物を取りに部屋を出た数分の間に、きっと何かがあったのだろう。俺が部屋に戻ると、彼女は入れ替わりに帰ってしまった。  翌日、学校で『弟さんと仲良いんだね』と言われたきり、暫くして別れてしまった。理由は特にない。彼女から連絡が来なくなり、所謂、自然消滅というやつだった。今思えば、蒼弥が何か言ったのだろう。  それから部活に明け暮れていた俺は、彼女というものに恵まれなかった。蒼弥にも、そういう浮かれた話はなかったと思う。この頃には、一緒に遊んだりする事は殆どなくなっていたから、あまり知らない。
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