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意気地なしと呼ばれた俺は、詫びにケーキを献上する。大概の事はこれで機嫌がなおる。
しかし今回は、どうにも虫の居所が悪かったらしい。ケーキにフォークを突き刺しながら、くどくどと俺の奥手さに嫌味を言い続ける。いい加減鬱陶しくなり、半分以上残っているホールケーキと蒼弥を置いて自室に戻った。
翌日、起きたら蒼弥は既に登校した後だった。行ってらっしゃいも言えてない。それだけは、喧嘩をしていても欠かさなかったのに。
俺は大学からバイト先へ直行し、帰宅したのは深夜だった。
玄関に、揃えて置かれたスニーカーがある。蒼弥は今日もこっちに来ているらしい。寝室を覗くと、静かに寝息を立てていた。
蒼弥のベッドに腰掛け、少し赤らんで腫れている目尻に指を這わす。起こさないようにそぅっと触れるが、俺に敏感なようで起こしてしまった。
「ん····おかえり。兄ちゃん、一緒に寝よ?」
「あぁ、さっとシャワー浴びてくるわ」
俺は軽食を食べ、シャワーを浴びてベッドに潜り込む。俺を待って端に寄っていた蒼弥が愛おしい。今度こそ起こさないように、慎重に抱き締める。
だが、結局起こしてしまい、キュッと擦り寄ってきた。背中を小気味よく叩くと、蒼弥は子供の様にすやすやと眠った。
コイツがどこまで俺を求めているのかは、正直分からない。だけど、今はキスまで。俺は勝手にそう決めている。だから、眠った蒼弥の瞼にキスを落として俺も眠った。
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