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朝夕の涼しさに肌寒さを感じるようになったある日。智樹の彼女が押し掛けてきた。
智樹は高校からの友人だ。漸くできた彼女を交え、よく3人で連んでいた。それなりに仲は良かったと思う。
けれど、まさか家にまで押し掛けてくるとは思わず、智樹に連絡して『早急に引き取れ』と言った。1時間くらいで来ると言っていたが、それまでは愚痴を聞く羽目になるのだろう。ウンザリだ。
幸い、蒼弥はまだ学校だ。帰るのは、部活を終えて7時頃になると言っていた。面倒にならないよう、それまでに帰らせなくては。
そう思っていた矢先、蒼弥が帰ってきた。玄関で彼女の靴を見て、おそらく盛大に勘違いをしたのだろう。
リビングの扉を静かに開け、俺と彼女を見て立ち尽くす。その場の誰も声を出せぬまま、体感にして数分が経った。けれど、実際は数秒だったのだろう。
俺は、取り繕うように蒼弥へ声を掛ける。
「お前··部活は?」
「休みになった」
「あー··そうか。えっと、蒼弥····彼女は──」
蒼弥はそれ以上俺の言葉を聞かず、手を掛けたままだったノブを引いて扉を閉めた。
「おい、聞けよ。違うんだって。蒼弥、待てって! 蒼弥!!」
家を飛び出した蒼弥を追い掛ける。咄嗟にサンダルを履いてしまったから追いつけない。それでも、必死に蒼弥の背中を追う。
友達の彼女が押し掛けてきただけ。痴話喧嘩の愚痴を聞かされていただけ。それだけなのに、なんでそんなに怒るんだよ。
俺の恋人はお前だ。そう言おうとした瞬間だった。
蒼弥は、信号無視をして横断歩道に突っ込んできた乗用車に跳ねられた。小柄な蒼弥は遠く跳ね飛ばされ、十数メートル先に頭から落下した。
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