狡いよ、意気地なし

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 事故から3日経った深夜、蒼弥が目を覚ました。たった3日で(やつ)れた蒼弥。目を開けるだけでもやっとのようだ。  急いで先生を呼び、一通りの検査を受ける。特に後遺症もなく、回復の速さは奇跡に近いと言われた。  けれどひとつ、俺だけが困っている事がある。これは誰にも言えないから、どうしようもないのだけれど。  どうやら蒼弥は、俺への想いを失くしてしまったらしい。だからと言って、これまでと特段変わったことはない。ただ、キスをしなくなっただけ。その程度の事だ。  これで良かったのかもしれない。誰にも祝福されない恋なんて、蒼弥が苦しむだけなのだから。  そうだよ。結果オーライだと思えばいいじゃないか。  誰にも何も打ち明けられないまま、家に帰って独りで朝まで泣き通した。これは、俺だけが胸に秘めているべきなのだ。頭では理解できても、心が崩壊しそうで怖かった。  もう一度、蒼弥とキスをしたい。これは、二度と(いだ)いてはいけない想い。俺は、蒼弥への想いを捨てる決意をした。  蒼弥は、2ヶ月で退院できた。そして、母さんの反対を押し切り、俺の家に帰ってきた。  恋人としての記憶だけ、すっぽり抜けている様で、それ以外はこれまで通りブラコンらしい。なんとも都合のいい記憶喪失だ。
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