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森と言えば不思議ですし、不思議と言えば森ですし
ローヒンはすっかり女性の姿に見入ってしまっていた。
「ローヒンさん」
「あ、は、はい!」
ローヒンは慌てて姿勢を正す。何だかこの女性に逆らってはいけない、そんな雰囲気を感じ取った。
「娘を助けていただいて、どうもありがとう。改めてお礼申し上げます」
「あ、いや、どうも……」
ローヒンはペコペコと頭を下げる。というかやっぱ王妃様やったんや、と思いながら。
「あのところで、どうして王妃様がこのような場所に? お体の方は大丈夫なのですか?」
王妃は三年前から原因不明の病気により、しばらく療養するとのことで国民の前には姿を見せていなかった。
「実は、病気というのは嘘だったのです。ご心配おかけしました」
「え、病気ではなかったのですか? それでは……」
「近頃、キーングが好き放題に暴れ回っていると聞いて、気になっていたのです。キーングは人気の少ない山や森を中心に破壊活動をしていると、そういう噂もあります。それで、この森にも被害がこないようにと、しばらく見張っているのです」
「なるほど……、でもどうして王妃様が? 他の兵士などには」
王妃は目を瞑り、首をゆっくりと横に振る。
「この森は特殊な森なのです。立て札を見ましたね? この幻夢の森はその名のとおり、通る者に幻覚を見せて惑わせる不思議な森なのです。それだけならいいのですが、普通の人間が通れば、間違いなく霧に晒されて身動きがとれなくなり、下手をすると、一生森から出られなくなってしまうことも、あります……」
「おっそろしい森やな」
ウォーリッシュが声を上げた。王妃は頷く。
「でも、じゃ何で王妃様は平気なんや? ボクらも今は平気やし」
王妃相手にもタメ口は変わらず叩くウォーリッシュ。ローヒンはこの人今後やっていけるんかいな、と思う。
「それは、私が霧をコントロールしているからです。この幻夢の森は、霧の発生によって旅人に幻覚を見せているのです」
「ほお、けどそんなことができるなんて、王妃様って……」
「詳しい事情を話すことはできません。しかし、私がいる限り、この幻夢の森にもし誰かが迷い込んだとしても、すぐに助け出すことができます」
「もしかして、ボクらが迷って出てこれんくなるのを防ぐために?」
王妃は微笑んで、ローヒンを見やる。そして、ローヒンの手を取り、あるものを握らせた。
「これは……?」
「霧の筒です。霧の魔法がかけられています。きっとキーングを倒すときに役に立つでしょう」
そう言うと、王妃の周りに霧が発生した。王妃の姿が見えなくなる。
やがて完全に見えなくなったところで、王妃の声が響く。
「それでは、がんばってくださいね。勇者ローヒンさんと戦士ウォーリッシュさん」
ローヒンは先程渡された左手の筒を見て、ニヤリと笑う。
「任しとき!」
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